数々のベストセラーを持つ人気作家で、日本文藝家協会理事長もつとめる林真理子さん。不祥事で混迷を極めていた母校からの声に応えて、日本大学初の女性理事長に就任しました。巨大組織のトップは「ヒヤヒヤする日々の連続」、一方で「非常にやりがいがある」と語ります。林さんに話を聞きました。 * * * ――林理事長は1976年に日大の芸術学部文芸学科を卒業していますが、当時の日大はどのような雰囲気でしたか? 規模が大きいのはよいことだとされる風潮の中、知名度も高く日本で一番大きい大学として、世間の印象はよかったと思います。私は山梨県出身で、田舎の親戚たちも喜んでくれていたようです。 芸術学部がある大学は当時かなり珍しく、先進的でしたね。キャンパスには、いかにも“日芸”という雰囲気のとがった服を着た学生や、ロケの打ち合わせなど仕事の電話をしているセミプロ学生がたくさんいました。 当時の日大の女子学生比率は、短大や大学院も合わせると約1割。女子大生は今では考えられないほど希少な存在でしたが、みんな男子に萎縮することなく元気でした。 ■大学経営って面白そう ――その後作家として活躍する中、2022年に日大初の女性理事長に就任しました。元理事長が脱税で有罪となり、混迷を極める日大からのオファーに応じた理由はなんですか。 女性の私がトップに立つことで、低落した母校のイメージが少しでも良くなればという思いでした。一方で、大学経営ってやったことがないから面白そう、という純粋な好奇心もありました。 就任当初は本当に大変で、この話をしたら3時間はかかりますよ(笑)。大学職員の方たちは、突然わけの分からないおばさんが来て、これからどうなるのかビクビクしているわけで、仲良くやりましょうなんて呼びかけたってうまくいかないですよね。まずは自分が書いた本を450冊買って、サインをして、「私のことご存じないでしょうから」と手紙を添えて配りました。『小説8050』という、ひきこもりがテーマのベストセラーになった本です。 トップは孤独なので、つらかったですね。組織体制を整えた結果、学長、副学長のほか、今は総務、財務、人事、ダイバーシティーなどの各分野を担当する4人の業務執行理事が支えてくれるので、非常に助かっています。