米政府、首都ワシントンの警察本部長交代を撤回 首都の訴えを連邦地裁認め

トランプ米政権は16日、コロンビア特別区(DC、首都ワシントン)の警察本部長交代を命じた指示を撤回した。パム・ボンディ司法長官は15日、麻薬取締局(DEA)の長官を同地区の「緊急警察本部長」に任命したが、首都ワシントンが政府を提訴したため、首都ワシントンの連邦地裁が緊急で審理した。 首都は訴えの中で、ボンディ長官の命令を無効とし、DEA長官が首都警察内で一切の指揮権を持たないよう求めていた。 裁判所の決定により、首都警察のパメラ・スミス本部長は、引き続き警察の指揮を執ることが決まった。 首都ワシントンのアナ・レイズ連邦地裁判事は、トランプ政権が警察権掌握の根拠とした連邦法「コロンビア特別区自治法」に基づき、同市のミュリエル・バウザー市長はホワイトハウスの指示に従う義務があると指摘した。 ただし、同法は政権に首都警察全体の完全な統制権を与えるものではないと、判事は明言した。 連邦地裁の審理後、司法省はDEAのテリー・コール長官を緊急警察本部長の立場から外すことに同意し、新たな命令を発出した。この命令では、DEA長官は政権と警察の間の仲介役に位置付けられている。 トランプ政権の新しい命令は、市長室に対し、連邦政府の移民取り締まり政策および「公共スペースの不法占拠」に関連する取り締まり活動に協力するよう要求している。 首都ワシントンのブライアン・シュワルブ司法長官は、「首都警察の指揮権に関する主要な問題は解決されたと期待している」と述べた。 一方、ボンディ司法長官は15日夜に発表した声明で、「公共の安全を改善しようとする我々の取り組みに(シュワルブ長官が)引き続き反対している」と非難。そのうえで、政権は引き続き「バウザー市長との緊密な連携に尽力する」と述べた。 トランプ政権と首都ワシントンは、移民政策に関する議論を来週も継続する見通し。 ■市長は「権威主義的な介入」と批判 トランプ大統領は11日、首都ワシントンでの犯罪抑止のために、連邦政府の法執行機関を投入する方針を表明した。 米政府はその後、数百人規模の州兵や連邦捜査官を首都ワシントンに派遣し、ホームレスが屋外で寝泊まりしている場所の撤去や検問所の設置などを通じて、治安維持を強化している。1970年代に制定されたコロンビア特別区地方自治法を根拠に、首都警察を「必要かつ適切と判断する連邦目的」に使用できると主張している。 こうしたなかでボンディ長官は15日夜、DEAのコール長官が、首都警察のスミス本部長の「すべての権限と職務を引き継ぐ」とする命令書を発出した。スミス氏は今後、首都警察に対する新たな指示を出す前に、コール氏の承認を得なければならないという内容だった。 この命令に、バウザー市長とシュワルブ司法長官が即座に反発。「違法な命令だ」と非難し、スミス本部長に「従う必要はない」と伝えたことが明らかになっている。 スミス氏は15日に提出した宣誓供述書の中で、「ボンディ命令が実行されれば、首都警察の指揮系統が崩壊し、市民と警察官双方の安全が脅かされる」と述べた。 また、「約30年にわたる警官としての経験の中、これほど法と秩序に対する脅威となる政府の行動を見たことはない」と強く非難した。 首都ワシントンではここ数日間で、装甲車が記念碑や観光地周辺に並び、人気のナイトライフ地区では車両の検問が行われている。国立公園警察のヘリコプターも上空を旋回している。関係者によれば、首都には約800人の州兵と、連邦捜査局(FBI)などの連邦捜査官500人が派遣される見通しだ。 民主党のバウザー市長は、同首都は「緊急事態ではない」と強調。トランプ大統領の「不要かつ前例のない措置」は「権威主義的な介入だ」と批判している。 トランプ大統領は、首都警察を連邦政府の管轄下に収めようとした初の大統領だとされる。ただし、連邦政府が首都ワシントンの警察活動に介入しようとした例は過去にも存在する。 1989年には、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が、コカインによる慢性的な犯罪多発を受けて、約200人の州兵を地元警察の支援に派遣した。ただし、州兵が市街地を巡回することはないという前提での派遣だった。 より最近では、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件後に州兵が派遣されたほか、ジョージ・フロイド氏の殺害を受けて全国で続いた2020年の抗議活動対応にも州兵が出動している。 ボンディ司法長官は15日、FOXニュースの番組「ハニティ」に出演し、DEAのコール氏の任命を発表した際、連邦捜査官は今週に入って156人を逮捕し、27丁の銃器を押収したと述べた。 トランプ氏は、首都ワシントンで治安が悪化していると主張しているが、BBCヴェリファイ(検証チーム)の分析によると、それとは異なる傾向が見られる。 首都警察が公表した統計によると、暴力犯罪は2023年にピークを迎えた後に減少し、2024年には過去30年間で最も低い水準となった。2025年の暫定データでも、減少傾向が続いている。 同警察によれば、2025年の暴力犯罪全体は前年同期比で26%減少しており、強盗は28%減少している。 トランプ氏は就任後、移民税関捜査局(ICE)による強制送還の取り締まりに対する抗議活動を鎮圧するため、ロサンゼルスにも州兵を派遣している。 (英語記事 Washington DC sues federal government over police takeover)

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