「ウクライナ外し」米露首脳会談は露の思惑通り 防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事

ロシアの思惑通りに進んだ米露首脳会談だったといえる。ウクライナとの全面停戦に歩み寄ることもなく、米国による対露制裁強化もかわすことができた。プーチン露大統領が要所要所で満面の笑みを浮かべていたが、露側の狙いがほぼ全て達成されたのではないか。 プーチン氏にとって10年ぶりの米国での首脳会談というだけでも成果だが、今回はトランプ大統領からレッドカーペットで迎えられた。国際刑事裁判所の逮捕状が出た人物が米大統領と会談するだけでも異例だが、西側から制裁を受けるロシア、プーチン氏に国際社会復帰に向けたアピールの場を与えてしまった。 トランプ米大統領は「進展があった」というが、今回は準備期間が短く、早期の全面停戦に向けた進展はなかったと思われる。停戦を巡り、米露の共同経済活動や制裁緩和などを協議した可能性もあるが、具体的な合意には至っていないのではないか。 プーチン氏の「次回はモスクワで」との発言からも分かるが、ウクライナのゼレンスキー大統領を交えた3者会談は望んでいない。早期停戦の思いが強すぎるトランプ氏がプーチン氏の当意即妙な外交手腕にのみ込まれたようにも思える。 ロシアは短期的には戦争終結を考えておらず、米露2カ国で交渉を進めつつできる限り時間を稼ぎたい。一方的に併合を宣言したウクライナ4州のうち、特にドネツク州を完全制圧しようと攻勢を強めている。将来の停戦交渉を有利にするために「取れるだけ取っておく」との算段だろう。 プーチン氏のペースで進んだ米露首脳会談を通じ、停戦交渉がウクライナを外した米露主導で行われるとの印象も強まってしまった。ウクライナとしては占領された地域をロシア領と認めることはあり得ないが、3者会談なしでは意見も表明できない。自国の主張を反映させた停戦交渉に持ち込むため、欧州などといかに米国側に働きかけられるかが今後の課題となる。(聞き手 桑村朋)

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