●容疑者の家建てた間柄 普段はのどかな七尾市中島地区の介護老人保健施設に22日、衝撃が走った。殺人の疑いで逮捕された岡田道定容疑者(87)と被害者の石坂壽(ひさし)さん(93)は、周囲から「相棒」と言われるほど仲が良かった。施設で同室だった2人に何があったのか。付近住民は「信じられない」と一様に驚きの表情を浮かべた。 22日正午ごろ、事件が起きた七尾市中島町鹿島台の「寿老園」の駐車場にパトカーが集まっていた。施設長の辻口百代さんは「入所者同士のトラブルがあったが、捜査中のため詳しくは言えない」と口をつぐんだ。 午後には警察官が捜査と施設周辺の警戒に当たり、張り詰めた雰囲気に。夜に退勤する職員は「何も言えない」と言葉少なだった。 岡田容疑者と石坂さんはともに中島地区在住。2人をよく知る60代女性によると、いずれも一人暮らしで、施設には2人とも今年に入ってから入居したという。女性は「岡田さん、石坂さんともに、優しい人だった」と話す。 石坂さんと同じ集落に住む60代男性は、大工だった石坂さんが岡田容疑者の家を建てるほど2人の仲は良かったという。男性は「トラブルが起こるような仲には見えなかった」と驚いた表情を浮かべた。 石坂さんについて「物知りの人だったから、分からないことを聞きに行き、教えてもらった。若い頃からよく世話になった」と振り返り、「数年前まで働いていて生粋の大工という感じの人だった」と人柄をしのんだ。近所の複数の住民も石坂さんについて「優しい」と口をそろえた。 先の60代男性は岡田容疑者に関して「問題を起こすようには見えず、至って普通の人。凶悪な事件を起こすとは信じられない」と声を震わせた。 ●人となり、深く理解を 金城大人間社会科学部・新口春美准教授 高齢者福祉が専門の金城大人間社会科学部の新口春美准教授は、高齢者による介護施設での重大事件について「利用者間の小さなトラブルや人間関係を観察し、人となりを深く理解する必要がある」と述べた。 施設職員が全ての利用者を見続けることはできないとした上で「普段の言動に問題のない人もいれば、うつ病や認知症など病気の人もいる。さまざまな人がいる中で小さなトラブルは必ず発生する」と指摘する。他の利用者の何げない振るまいや言動でストレスがたまることもあるという。 利用者が同じ部屋で生活することについて「24時間一緒に過ごすことで、これまで見えなかった部分が見えてくることもある」とし、知人や友人同士でもきめ細かいケアが必要とした。 「何度もトラブルがあれば、利用者の部屋を替え、なるべく同じ空間にいさせないといった対策もできる。利用者が施設に入る時から積極的に人間性を見ることが大切だ」と語った。