無職であることを隠してマンションを借りられるように書類を偽造したなどとして、福岡県警が詐欺容疑などで、福岡市と大阪市にある別々の不動産仲介会社に勤める営業担当の男性社員計2人を逮捕していたことが、捜査関係者への取材で判明した。2人に面識はなかったが、手口は酷似しており、不正契約された4部屋はいずれも違法薬物密売グループの拠点などに使われていた。県警は、密売グループが各地の不動産業者の社員に働きかけ、拠点を増やしていた可能性があるとみて全容解明を進める。 県警は5月以降、福岡市と大阪市のマンションで大麻草を栽培したなどとして、密売グループの男女7人を逮捕。各マンションから栽培中の大麻草150株や乾燥大麻約6・8キロなど末端価格で計4670万円相当の違法薬物を押収し、発表していた。 捜査関係者によると、その後の捜査で、各マンションの部屋は、密売グループの別々のメンバーが個々に賃貸契約を結んでいたことが発覚。メンバーはいずれも無職だったが、それぞれ就職先が決定しているように見せかけた虚偽の内定通知書が作成され、入居審査を通過していた。 県警は6月、大阪市の拠点マンションをメンバーが借りる際に書類を偽造したとして、同市の不動産仲介会社の男性社員(27)を逮捕。福岡地検が詐欺罪などで起訴した。県警は、別のメンバーが福岡市の拠点マンション2室を借りる際にも同様に虚偽の書類を使って賃借権をだまし取ったとして、同市の不動産仲介会社に勤める30代の男性社員も今月28日に逮捕したという。 社員2人は密売グループの一員ではないとみられ、不正契約された部屋が薬物密売の拠点として使われることも知らなかった可能性があるという。起訴された大阪市の不動産仲介会社の男性社員は公判で「営業成績を追いかけすぎたため、偽造してしまった」などと供述。県警は、社員らが利益や自己の成績のために安易に不正契約に手を染めており、そうした状況を密売グループが悪用しているとみて捜査している。 不動産コンサルタント会社「さくら事務所」(東京)の長嶋修会長(57)は「不動産仲介業者の不正は犯罪インフラの提供に直結しており、許されない。業界では、営業マンの評価基準が契約件数に偏っているため、不正に走る人が出てくるのだろう。業界全体として『契約件数第一主義』から『信頼第一主義』へと発想を転換しなければならない」と指摘する。【栗栖由喜】