「決勝戦はかなりのカネが動いた」白熱した甲子園の感動の裏で…黒い思惑が蠢く「高校野球賭博」の実態

第107回全国高校野球選手権大会は8月23日に沖縄尚学(沖縄)が日大三高(西東京)を下して初優勝を飾り、熱戦の幕を閉じた。しかし、今回の大会では広陵(広島)の暴行問題などで野球というスポーツの〝健全さ〟への疑問の声も多数あがり、大会としてのあり方も問われた。 高校野球で暴力は許されない。またカネなどのさまざまな大人の思惑が介在することもあってはならない世界だ。しかし、裏社会では高校野球賭場が盛況だという現実がある。プロ野球での野球賭博は、’15~’16年に当時読売ジャイアンツに所属していた笠原将生、松本竜也、福田聡志らが関与した問題が波紋を呼んだ。野球賭博はプロの試合だけでなく、高校野球でも行われており、夏の酷暑さながらの熱気を帯びた鉄火場だという。 取材に応じたのは、野球賭博を行っている胴元から集金を任されているI氏。そこは暴力団組織のシノギとして商売をしており、絶対に損をしないシステムで運営されているという。 「AとBの試合でAチームに100万円、Bチームに20万円の賭金が集まったとします。金額の差はそのままチームの強さに比例することが多いです。胴元は払戻金から1割を手数料として徴収するので絶対に儲けられますが、さらにはオッズも操作しています。 この例だと、そのままの比率だと1対5ですが、それを1対3にするといったように集まった金額に対して倍率を低く見積もることで、利益を出しています。露骨に倍率操作をしたところで、そもそも野球賭博が違法なため誰も文句は言いません」 ◆「京都国際と健大高崎の試合は盛り上がった」 野球賭博の運営で問題となるのは、賭金が集まらないことだ。トラブルを避けるために、競馬や競艇といった公営ギャンブルと違い、最低投票金額も高く設定しているとのことだ。それは少額で違法賭博をする人たちは警察に密告をするなどのトラブルが多いからだと話す。 「うちは一口5万円単位で、電話で受け付けています。最低10万円からの賭場もあるので、こういった賭博の中ではそこまで高くはありません。少額で賭ける人に限って、なけなしの金で賭けをしては『違法だから払う必要がない』と難癖をつけてくることが多いですし、集金や分配も面倒になります。 お客さんからの集金額に応じてオッズを変えていますが、強豪校が出場する試合では当然のように強いチームに賭ける人が多くなります。明らかに賭けにならない場合でも、オッズは1倍近くに調整するようにして、不毛な勝負にみせないことも運営側に求められます」 最初のオッズは胴元が出場校の下馬評を基に作成し、試合当日の1時間前まで金を賭けることができる。「京都国際と健大高崎の試合は盛り上がりました」という。優勝候補同士の対決では、かなりの人たちが賭けに興じていたという。 「また、強豪校に金が集まりすぎると賭けにならないので、3点差をつけるまではオッズは1倍といった具合に点差で払戻金を調整します。3点差で勝ったとしても、手数料が引かれるので損をするんです。逆に番狂わせが起き、更に点数差が付いていると配当金も高くなるので、あえて弱いチームに賭け続ける人もいるくらいです」 点数差によるオッズの変動は、より賭けをスリリングにするために客からは好評だという。賭けられた金額にもよるが、3点差からオッズが0.2刻みで上がるという。 ◆取り立ては昔ながらの暴力団スタイル 野球賭博は全て現金でのやり取りだが、その都度していたら手間がかかる。そのため集金も払い戻しも週に1度、月曜日しか行わないという。集金日までにお金を工面できればよいので、理論上は無一文でもギャンブルができるシステムだ。過去には1週間でゼロから250万円を手にした者もいるそうだ。なかなか危なっかしい運営にも感じるが、3年に1度程度しか金銭トラブルはないとI氏は語る。 「基本金がある人の遊びなので、数十万円で飛んだりすることはありません。過去にあったのは、とある企業の社長からの紹介で、その会社の社員が60万円の負債を抱えることになりました。友人からも金を借りられず、結局社長が立て替えました。紹介者のメンツにも関わりますし、裏社会での出来事なので、表に出ないように内々で隠蔽したようです」 I氏が担当した集金では過去に一度、飛ばれたことがある。その時に胴元による陰湿な嫌がらせが行われた。 「飛ばれたときは胴元が動きます。私が知っているのは、飛んだ人の会社に電話で『おたくのAさんが金を返さない。会社が立て替えてくれ』と連絡したり、家に押しかけて『金を返せ』と騒いだり、昔ながらの暴力団の取り立てみたいでした。3日もやれば払いますね」 時代が変わっても、胴元が暴力団組織である以上、取り立て方法は昔と変わらないのだ。この取り立ては暴力団が雇った街のチンピラに〝外注〟されているという。 沖縄尚学が優勝を決めた決勝戦はかなりの金が動いたようだ。I氏は「400万円くらい投票されているんで分配と集金で週明けは忙しいですね」と残して去っていた。 高校野球を巡る賭博では、’24年の6月にも広島で客に優勝校などを予想させて現金を賭けさせたなどとして、暴力団組員の男が逮捕されている。このような賭博で捕まるとどうなるのか。アトム法律事務所の出口泰我弁護士が次のように解説する。 「賭場を開帳した側は『賭博場開帳等図利罪』の罪に問われ、罰則は3ヵ月以上5年以下の拘禁刑(懲役刑)となります。賭けた客も『賭博罪』で50万円以下の罰金または科料、『常習賭博罪』の場合は3年以下の拘禁刑となる可能性があります。賭場を開帳する側のほうが犯罪行為として悪質と考えられているため、重い罰則となっております。 また、暴力団が開帳していた賭場の場合はより重い処罰になることが考えられます。賭けた客側も、暴力団の資金源を断つという意味で、暴力団だと知って賭けた場合は厳しい処罰となることが考えられます」 高校球児たちの白熱した戦いの裏で行われる大人たちの欲にまみれた違法なギャンブルを許してはならない──。 取材・文:白紙緑

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