神戸女性刺殺の遠因か 甘すぎた過去の判決「被害者は司法の不作為の犠牲になった」 書く書く鹿じか

米国に「三振法」と呼ばれる法律がある。重罪で2度有罪になると、3回目は軽い罪でも終身刑になる。常習犯による凶悪犯罪を防ぐために、1990年代に多くの州で制定された。野球のスリーストライク=アウトからの発想は、いかにもアメリカ的である。 その後、どんな罪でも有無を言わせず終身刑にするのは厳しすぎると、いくつかの州で適用する条件や量刑の見直しが行われた。それでも、犯罪を繰り返せば通常より重い刑罰を課されると周知され、心理的な抑止力になっている。 神戸市内のマンションで24歳の女性会社員が帰宅時、エレベーターに一緒に乗ってきた男に刺殺された事件は衝撃的だった。防犯カメラがとらえた、被害者を物色し、執拗に付け回す男の姿に慄然とする。女性に落ち度はまったくない。見ず知らずの男に狙われたのは、不運としか言いようがない。 こうした無差別で通り魔的な事件が後を絶たない。「誰でもよかった」という犯行は、いつ、どこで起きるかわからず、防ぎようがない。人を見たら犯罪者と思え、と常にビクビクしていなければならないとは、嫌な世の中である。 男は令和2年と4年に、ストーカー規制法違反容疑などで逮捕されていた。1度目は女性の後に続いてオートロック式の扉をすり抜け、罰金の略式命令を受けた。2度目は女性の部屋に押し入り、首を絞めるなどして傷害罪にも問われた。 問題なのは、神戸地裁の裁判官が「再犯が強く危惧されると言わざるを得ない」としながら、反省の態度を示し、再犯防止に努めると述べているなどとして、懲役2年6カ月、執行猶予5年の判決を言い渡したことだ。更生を期待したとしても、加害者に甘すぎる。 刑事裁判における量刑は、軽重のばらつきがないようにする相場観があるとされる。だが、約5カ月間も付きまとった悪質性や、被害者の恐怖を考慮すると、執行猶予ではなく実刑にすべきだった。「再犯が強く危惧される」と指摘するなら、どうして保護観察を付けなかったのだろう。 ストーカーや性犯罪は、再犯率が高い。そのまま社会に戻すのではなく、専門家が更生に関与し、治療などが行われていれば、今回の事件は起きなかったのではないか。あえて言う。刺殺された女性は司法の不作為の犠牲になったのだ。

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