「おぢ」から総額1億5000万円という大金を引っ張り、そのマニュアルも販売して逮捕された頂き女子りりちゃんこと渡邊真衣に痛快さを感じていた人も、獄中にいる彼女を利用してビジネスしようとする連中が嫌だと思っていた人も(この本にも「渡邊被告に『Xで儲けよう』と提案するために、東京から名古屋拘置所まで面会に来ていた」「海賊版サイト『漫画村』を開設し、大手出版社3社から著作権法違反で訴えられ、約17億円の賠償金支払い命令が下った」星野ロミ氏が登場)、どちらも今回の被害弁済プロジェクトが頓挫する流れにガッカリしたんじゃないかと思われる。地頭がいいはずの彼女が、被害弁済の資金を獄中の反社らしき男性に貢ごうとするなど、結局また怪しい男に利用されちゃうのか、と。 彼女は、大好きなホストに愛されたくて、ますます足を踏み外していった。これは、そんな彼女に愛されたくて「どんどん渡邊被告にのめり込んでいく私を見て『記者としての規範を逸脱しているのでは』と注意する担当編集者や友人、ネタ元たち」というぐらいに足を踏み外しかけた著者によるノンフィクション。彼女と両親との関係とか興味深い話も多いが、逮捕の原因になったマニュアルの話がやっぱりしんどすぎた。 「私に『マニュアルを作って売りなよ』と言ったホストのA君は、情報商材が大好きで。中でも、『ナンパ界隈』に夢中になっていたんです」 このAとは、彼女が初めてホストクラブにいって最初に指名した男であり、彼をナンバーワンにするために彼女はソープで働くこととなる。 計3冊出したそのマニュアルが売れるからとさらに値段を上げて荒稼ぎしようとする周囲の男たちと、「そもそも女のコを喜ばせたいと思って始めたマニュアルなのに女のコから5万円も取るとか、意味がわからない」と疑問に思う彼女。この地獄のような搾取構造からどうにか逃れて欲しいと心から願うばかりだ。 [レビュアー]吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター) 1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!! 道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(? )新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社