イスラエルのガザ地区への軍事作戦が始まってまもなく2年がたつ。中東ジャーナリストの川上泰徳さんとガザの支援を続けるミュージシャンの坂本美雨さんが語り合った。AERA 2025年9月15日号より。 * * * ──イスラム組織ハマスとイスラエル軍の対立が激化した2023年10月7日から間もなく2年を迎えるが、戦闘はいまも続き、パレスチナ側の死亡者は6万人(8月末時点)を超えた。 ■この瞬間も起きている 坂本美雨:イスラエル軍がハマスだけではない、民間人を無差別に殺していることに衝撃を受けました。「虐殺」「民族浄化」と言われることが、いま目の前で、この瞬間も起こっているわけです。私はニューヨークの郊外で10代を過ごして、リベラルな考え方の学校に通っていましたが、イスラエルがパレスチナを占領していたということについては学んでいません。まわりを見渡しても98%ぐらいがユダヤ人でしたし、「ホロコーストの被害者」ということで傷を深く負っている家庭も近くにいました。そういう意味では、この問題の身近なところで育っていたのに、イスラエルとパレスチナの問題を何も知りませんでした。 インスタグラムで、ガザの惨状を発信するうちに「日本人の女性が自分たちのことを発信してくれている」と広まったのか、どんどんメッセージが来るようになりました。その後、アーティストによるガザの人道支援を集めるチャリティーオークション「Watermelon Seeds Fundraiser」を立ち上げるなどして支援にかかわるようになって、活動をしていると心が通う人っていうのは不思議といるもので、いまでは友人関係っていうレベルぐらいで日々やりとりをする人が何人かいます。この2年間ずっとコンスタントにやりとりをしているので「今日、友だちは大丈夫だっただろうか」などと、個人的な思いもどんどん強くなりました。 川上泰徳:私は、24年7月にパレスチナとイスラエルを訪れ、ヨルダン川西岸地域では、イスラエル軍による攻撃や破壊、入植者の暴力などを記録しました。それが、公開中のドキュメンタリー映画「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」なのですが、映画の中に出てくるアメリカから来たユダヤ人の若者も自分が小さい頃は全然知らなかったと話しています。ところが、ガザの攻撃が始まって、ひどいことになっていて「許せないと思った」と話していて、入植者に襲撃を受けた村に行って暴力を監視する活動をしている。その姿は、坂本さんのお話に通じると思います。 坂本:特にユダヤ人だからこそ、ホロコーストのサバイバーだからこそ、二度と許してはいけないという団体も多い。一方で自分たちが優位であるとか、自分たちの約束された土地であるという意識のシオニストもいて、二極化していると思います。ただ、その人たちの常識や経済的な立場というのもすごく強い。だから、何人だからという民族や宗教の問題というだけにはとどまらず、その裏側には政治や経済が動いていて、それも長引いているひとつの要因なのかなと思うんですけど。