宗教団体による韓国政界への工作の実態とともに、日本から韓国の教団本部に送られた巨額資金の流れも解明してもらいたい。 韓国の特別検察官は、便宜を図ってもらう目的で尹錫悦(ユンソンニョル)前政権側に金品を提供したとして、政治資金法違反などの疑いで世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を逮捕した。 元教団幹部らと共謀し、尹前大統領の妻に高額のネックレスなどを贈った容疑が持たれている。 尹氏の側近で、保守系政党の国会議員にも1億ウォンを渡し、教団への支援を依頼したとされる。同党代表選で、この議員を推すため信者を集団入党させた疑惑もある。 韓氏は容疑を否認している。特検は今後、起訴の可否を判断する。 日本の教団による被害者の弁護団は「資金の流れや日本法人への指示、組織の実態や違法・不正行為の徹底解明を強く期待する」との声明を出した。 東京地裁が解散命令を出した教団の本部トップの動向を注視したい。 韓氏は、教団を1954年に創設した文鮮明(ムンソンミョン)氏の妻で、2012年の夫の死後、実権を握った。 活動を支えてきた大きな要素が日本の信者から集め、韓国の教団本部へ送られた資金とされる。 東京地裁が認定した日本教団の21年度の総資産は1100億円で、献金収入は毎年度300億円を超えるという。 困難な事情を抱える人につけ込み、霊感商法や高額献金で生活が維持できないほど吸い上げたものも含まれるとみられ、地裁は3月、教団に解散を命じた。教団は即時抗告、高裁で審議が続いている。 キリスト教徒の多い韓国で「異端」扱いだった教団は、軍事政権時代から政界に接近し、勢力拡大を図ってきた。「反共産主義」を掲げ、日本の自民党や米国共和党の一部とも関係を深め、信者獲得に利用したと指摘される。 安倍晋三元首相銃撃事件は、母親の多額献金に苦しんできた被告が、教団と深い関わりがあった安倍氏へ恨みを募らせたという。 事件後、選挙応援など自民党と教団側との接点が相次いで明らかになった。しかし、歴代首相とのつながりや、選択的夫婦別姓の反対など伝統的価値観を重んじる教団からの政治的働きかけの影響は依然、不透明なままだ。 今回の総裁選でも、再調査や検証に言及する候補はいない。裏金事件とともに、説明責任を果たし、徹底した調査が必要である。