「私は、罪を犯した人は一生をかけてその罪と正面から向き合い、反省し、償うべきだと思いますし、被告人にもそうしてほしいと思います。 しかし、被告人が数年にわたってこれだけの犯行を繰り返していたことや、逮捕されてから裁判にいたるまでの行動からすると、被告人にそれを望むのは無理なのだとも思います」 柔道塾の元塾長が、塾生だった(事件当時に13歳未満だった)複数の女児に性的暴行を加えた事件。9月10日に開かれた第3回公判では、被害児童の母親が意見陳述を行い、涙ながらにその胸のうちを明かした。公判の内容を伝える【後編】だ。 柔道塾の塾長だった石野勇太被告(33)は塾生だったA君への暴行、(起訴された順に)B~Hさん、計7人の女児への不同意性交等・不同意わいせつ・性的姿態等撮影・児童ポルノ禁止法違反などの罪、そして(事件当時18歳未満だった)Iさんへの児童福祉法違反と、合計10もの罪に問われている。 石野被告は’19~’24年の間に犯行に及び、被害児童が睡眠中に性的暴行を加えていたため、被害に遭ったことすら気づかなかったという。そして犯行の一部をスマホで撮影。動画データは100点以上、静止画データは400点以上に上った。 意見陳述で被害児童の母親が明かしたように、8月14日に開かれた第2回公判での石野被告の発言は、被害者やその家族の気持ちを逆なでするものだった。 この日は被告人質問が行われたが、弁護人の質問には、「誰がどう見ても許されないことをしたのは、わかっていますね?」という問いかけに「はい」と答えるなど、石野被告は自らの罪を認め、謝罪の言葉を口にしていた。 しかし検察官が質問に立ち、捜査段階での供述について質問を始めると、途端に発言がブレ始める。 ◆性犯罪者処遇プログラムを受けるのは「怖い」 検察官「捜査段階では、被害児童の口の中に陰茎を入れたことはないと話していましたが、この裁判では入れたと認めるわけですね?」 石野被告「私の中では触れさせたという認識で、口の中に入っていたとは考えていませんでした」 検察官「捜査段階では、被害児童の膣内に指を入れてはいないと話していましたが、この裁判ではその事実について認めるということですね?」 石野被告「私の記憶では入れていないという思いがありましたし、指を入れようとは思っていませんでした」 そして、検察官が「動画や静止画の映像とあなたの言っていることは、客観的に矛盾していると思うんですが」と発言したところで、弁護人が「矛盾していると言い切るのであれば、その画像を彼に見せて確認してくださいよ。そこまでこだわるのなら」と割って入り、宮本聡裁判長が「罪状認否では全部、間違いないとしていますが、それが嘘偽りなく、あなたの認識なんですね」と問いかけ、石野被告が「はい」と答えたことで、捜査段階での供述に関する質問は終わりとなった。 被害者の保護者の感情を逆なでした発言の1つは、被害者代理人弁護士の「出所後はどうするつもりか?」という質問に、「実家に帰るつもりです」と答えたことだった。介護が必要な祖母や父親がいるからという理由だが、実家に帰ることは被害者の多くが住んでいる地域に再び姿を現すことを意味する。 また、宮本裁判長が「刑務所の中には、性犯罪者処遇プログラムというものがあるんですが、受けてみようという気持ちはありますか?」と質問すると、突然、大きな声で、何度も息を吐きながらこう答えたのだった。 「私の罪は性犯罪です。性犯罪者は同じ受刑者からいじめられるということが、読んだ本に書いてありました。実際、勾留期間中に、報道で私を知っている人が後から入ってきて、トラブルになったことがあります。なので、プログラムを受けたい気持ちはありますが、怖いという気持ちもあります」 被害者の母親は第3回公判の意見陳述の中で、このことに触れて、こう述べていた。 「本当に反省していて再犯しないつもりなのであれば、プログラムを受けるという以外の答えは考えられないところです」 ◆求刑は「懲役25年」 第3回公判では、意見陳述に続いて論告弁論が行われた。 検察官は「本件は柔道の指導者が教え子を狙った連続的犯行として、子どもや保護者をはじめとした社会全体を震撼させた事案であった」と述べ、「被告人の人格の偏りや年少の女子を対象とした性的犯罪の傾向は極めて顕著かつ深刻で、再犯の可能性も非常に高い」と指摘。「懲役25年」を求刑した。 一方、弁護人は、「厳しいご意見をいただきましたが、いずれもごもっともだと思います」と述べたあと、「犯行は就寝中に密かに敢行されたもので、被害者に直接的な苦痛や恥辱までは与えていない」「約9ヵ月間の勾留や、全日本柔道連盟から除名処分を受けたことは社会的制裁に当たる」などと主張。「できるだけ寛大な判決を求めます」と述べた。 最終陳述では「被害者の皆様、その保護者の皆様に改めて心よりお詫びを申し上げます」「私のことを擁護してくれるというかけがえのない人たちの信用を二度と裏切らないよう心に誓い、反省の気持ちを忘れずに、これからの人生を進みたいと思います」と述べ、深々と頭を下げた石野被告。 すぐ右手には被害者の保護者たちが座っていたのだが、彼はそちらを見向きをすることもなく、被告人席に戻ったのだった。 判決は10月22日に言い渡される予定だ。 ※「FRIDAYデジタル」では、皆様からの情報提供・タレコミをお待ちしています。下記の情報提供フォームまたは公式Xまで情報をお寄せ下さい。 情報提供フォーム:https://friday.kodansha.co.jp/tips 公式X:https://x.com/FRIDAY_twit 取材・文:中平良