「週刊新潮」が7月に掲載したコラムで、作家の深沢潮さんらが「日本名を使うな」と名指しで差別を受けた問題で、深沢さんの代理人弁護士は30日、新潮社と結んでいたすべての出版契約が終了したと明らかにした。 代理人によると、新潮社との契約が終了したのは2012年のデビュー作「金江(かなえ)のおばさん」を収めた「ハンサラン 愛する人びと」と「縁を結うひと」のほか、「伴侶の偏差値」「かけらのかたち」の計4作品。 深沢さんは8月、新潮社にコラムが差別的で人権侵害にあたるかどうか2度にわたって文書で質問していた。新潮社は回答で「コラムの主眼は『朝日新聞の報道姿勢を問うたもの』であり、編集部もそのように読み取り、掲載に至りました」と釈明したが、コラムの内容に対する認識には言及しなかった。これを受け、深沢さんは出版契約を解消する意向を示し、手続きを進めていた。 深沢さんはこの日、代理人を通じて「契約解除は自分の尊厳を守り、作家として、ひとりの人間として、良心を失いたくないための苦渋の決断でした。私は新潮社が出版してきた数々の文学を愛し、『新潮社』からデビューできたことを誇りにしてきました。また、これまで関わってきた編集者の方々に感謝しています。以上をお伝えして新潮社とのおつきあいを終了させたいと思います」とするコメントを出した。 新潮社を巡っては、1997年に写真週刊誌「フォーカス」(2001年休刊)が、神戸市で起きた児童連続殺傷事件で逮捕された容疑者の少年の顔写真を掲載したことに抗議し、「兎(うさぎ)の目」や「太陽の子」などで知られる児童文学作家の灰谷健次郎さん(故人)が、新潮社との出版契約を解消したことがある。(伊藤宏樹、堀越理菜)