1984年10月7日生まれで、俳優キャリア28年を迎えた生田斗真。今話題の大河ドラマでの熱演ぶりと合わせて、映画作品中心に演技の魅力をたどる。(以下、作品のネタバレを含みます) ■4作目の大河ドラマ出演でヴィランを熱演中 2025年の生田斗真は、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)での一橋治済役が話題となっている。生田が「嫌いにならないで(笑)」と、たびたび発言するほどのヴィラン(悪役)なキャラクター。実際、出演シーンがあるとSNSには「憎々しい」「サイコパス」「怖過ぎる」「最低最悪」といった投稿が並ぶ。 江戸時代を舞台にした同作は、横浜流星が演じる蔦屋重三郎=蔦重が“江戸のメディア王”に成り上がるまでの波乱万丈の生涯を描く。生田が演じる治済は、八代将軍・吉宗の時代に後継者対策として作られた御三卿の一つ、一橋徳川家の第2代当主。吉宗の孫にあたるが、家格としては、将軍家に次ぐ地位の徳川御三家の下になる。ただ、嫡男が第11代将軍となったことで、富と権力を得るように。市井の人である主人公・蔦重とは身分的に直接の接触はないが、8月31日放送の第33回では、治済が命じたと思われる男によって蔦重が命の危機に陥る場面があった。 のほほんとした感じを醸し出しながら、権力拡大のためにさまざまな画策をし、邪魔者は次々と排除していく治済。嫌われるほどに視聴者をのめり込ませることは役者みょうりに尽きるだろうが、サツマイモやカステラを食べているだけでゾッとさせる雰囲気を作り出しているのは本当にすごい。 大河ドラマでは「軍師官兵衛」(2014年)、「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年)、「鎌倉殿の13人」(2022年)に続いて4度目の出演。「鎌倉殿の13人」での源仲章役も、主演した小栗旬が「ほんとにムカつきます」と発言したほどのヴィランぶりだったことも記憶に新しい中で、また違うあくどさで視聴者を震え上がらせていることは、生田の演技の引き出しが多いともいえるだろう。 ■太宰治の小説を原作にした作品で映画初主演を飾る 11歳でジャニーズJr.として芸能活動をスタートした生田。演技の初仕事は、1997年の連続テレビ小説「あぐり」(NHK総合)でのヒロインの息子役だった。そこから毎年のようにドラマ出演を重ね、「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」(2007年、フジテレビ系)では抜群のコメディセンスも見せた。 そんな中、映画初出演にして初主演したのが「人間失格」(2010年)。文豪・太宰治の生誕100周年を記念し、代表作の一つである自伝的といわれる小説を映像化した作品だ。小説に書かれている“美貌の青年”に対して違和感を覚えさせない顔立ちに加え、漂うアンニュイな雰囲気。多くの女性との恋の遍歴を重ねながら破滅的な人生を送る様子を丁寧に演じ、確かな演技力を広く印象付けた。 ■「俳優人生を大きく変えてくれた」役との出会い 以降、「シーサイドモーテル」、「ハナミズキ」(ともに2010年)、「源氏物語 千年の謎」(2011年)、「僕等がいた 前篇/後篇」(2012年)、「脳男」(2013年)と映画界でも活躍。 次にどんな作品で楽しませてくれるのかと待っていると、大きく驚かされることになった。高橋のぼるの人気漫画を、主演・生田×監督・三池崇史×脚本・宮藤官九郎で映画化した「土竜の唄 潜入捜査官REIJI」(2014年)だ。 生田演じる交番勤務の菊川玲二は、正義感は人一倍強いものの、警察学校を史上最低の成績で卒業し、巡査となってからは月間の始末書枚数のワースト記録を樹立する。そんなある日、署長から素行不良でクビを言い渡されるが、実はそれは表向きで、暴力団組織の会長を逮捕するため通称・モグラといわれる潜入捜査官となることに。 おバカでスケベな玲二を生田は、体を張って表現。金髪にド派手な洋服、野太い声でキャラクターを仕上げつつ、序盤で車のボンネットに全裸で張り付けられ、股間部分はかろうじてチラシで隠れている状態になって、口をあんぐりとしてしまった視聴者は多いことだろう。しかし、クセ強キャラがたくさん登場してドタバタもある中で、単におバカなだけではない玲二の真っすぐな熱さをキラリと光らせ、本作をシリーズ化する人気へと押し上げた。 3作目の「土竜の唄 FINAL」(2021年)の公開記念舞台あいさつに登壇した生田は、「『土竜の唄』という作品、そして菊川玲二という役は、僕の俳優人生を大きく変えてくれた役でもあって、玲二と『土竜の唄』に男にしてもらったなっていう感覚が非常に強いですね」と語った。 ■トランスジェンダーの女性役で繊細な表現 ドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」で披露したコメディセンスは、キャリアを積み重ねてくる中で振り切る面白さと、キャラクターの芯を通した見事な塩梅に進化した。生田の“演技の引き出し”は、まだまだ興味がつきず、こんな表現もできるのかと驚かされる。 土竜の唄シリーズ2作目「土竜の唄 香港狂奏曲」(2016年)のあとに公開された「彼らが本気で編むときは、」(2017年)で、ガラリと演技の印象を変えてきたのだ。荻上直子監督が脚本も担当したオリジナル作品で、主演の生田は恋人・マキオ(桐谷健太)の11歳になる姪と共同生活を送ることになるトランスジェンダーの女性・リンコを演じた。 マキオがひと目惚れしたリンコの、優しさがにじみ出るような美しさ。人と話すときの表情や目線も、しっとりとしていて、歩き方も声の出し方も、当たり前だが「土竜の唄」シリーズのハチャメチャな玲二とは180度違う。リンコは男根を模した編み物を煩悩の数と同じ108個作ったら燃やして供養することを目指しているのだが、その編み物をするときの手つきの柔らかさ。そのひと編みには悔しかったり、苦しかったりするリンコの思いが込められていて、ラストの展開にもつながる、編むという行為の表現を指先にまで行き渡らせている。 ■究極の心理戦を韓国の名優と繰り広げる巧みな演技 その後、生徒と教師の純愛を描いた「先生!、、、好きになってもいいですか」(2017年)、瑛太とW主演したヒューマンサスペンス「友罪」(2018年)、銭湯を舞台にした群像劇「湯道」(2023年)、渇いたような目の演技が印象的だった「渇水」(2023年)と、多彩な役どころで観客を魅了した。 そして2024年に劇場公開されたのが、韓国の名優ヤン・イクチュンとW主演した「告白 コンフェッション」。原作・福本伸行、作画・かわぐちかいじによる漫画を映画化した同作。生田演じる浅井とヤン・イクチュン演じるジヨンは、大学の山岳部OBで、同級生の慰霊登山中に猛吹雪で遭難してしまう。けがを負って死を覚悟したジヨンは16年前の殺人を告白。ジヨンは、ずっと苦しんできた罪の意識から解放されて安堵するが、その矢先に山小屋を発見し、2人は助かる。罪を告白してしまった男と、罪の告白を聞いてしまった男――。救助隊の到着を待つ中、気まずく、不穏な一夜が幕を開ける。 いわゆる密室劇で繰り広げられる心理戦。74分という近年にしては珍しい上映時間だが、めいっぱい緊迫した時間で見る者の心をざわつかせる。生田は、怯え、不安、恐れと細やかな息づかいを伝えながら、驚がくのラストへと導く。生田の演技の引き出しから多くのものが詰め込まれた1本といえるだろう。 端正な顔立ちも活かしながら、人間ドラマを見せるのに必要な心情表現の細やかさに長けていることで、コメディにもシリアスにも振り切ることができ、見る者を物語の世界へと引き込む。笑ってしまうほどおバカでも熱さに感動したり、苦しみを抱えた人物が持つ優しさに心が温かくなったり、恐怖のハラハラドキドキ感を共有したり。演技の引き出しには、まだ開かれていないものや、増えたもの、進化中のものもあるはず。そこから次にどんなキャラクターを仕上げてくれるのか、過去作を振り返りながら楽しみに待ちたい。 ◆文=ザテレビジョンシネマ部