Tシャツに短パンというラフな格好の中年男女たちが囲むテーブルの上には、書類の束やノートパソコン、スマホ、大量のSIMカードが雑然と置かれている。壁には大きなスクリーンが1つ。2階へ続く階段の下にはビールケースも見える。 これはフィリピンを拠点に特殊詐欺を続けていた日本人男女5人が10月7日夜、当局に拘束された際の映像の一部だ。 現場は首都マニラの中心部から南に車で3時間ほど離れた地方のアパートの一室。広さ約50平方メートル、ベッドルームが3つあるメゾネットタイプの部屋だ。 書類の左上には「りすと」という文字がプリントされ、日本人の氏名、生年、住所、電話番号などの個人情報がズラッと並んでいる。現場にいたフィリピン入国管理局の幹部はこう答えた。 「5人は拘束される直前までアパートで特殊詐欺を続けていた。その証拠がこれら個人情報のリストやSIMカードだ」 拘束されたのは岩本三矢子(34)、原田訓睦(のりちか)(48)ら5人の容疑者。警察官を装って電話をかけ、高齢者から現金をだまし取った特殊詐欺事件に関与したとして、’23年6月に福岡簡易裁判所から詐欺容疑で逮捕状が出ていた。 5人は不良邦人の犯罪組織「JPドラゴン」と接点を持っていた。この組織は「ルフィ強盗団」と呼ばれる特殊詐欺グループともつながっていたとされ、トップは吉岡竜司(55)という現地裏社会の黒幕だった。その吉岡が今年6月に拘束され、JPドラゴンは壊滅したと見られていたが、残党が暗躍していたのだ。 なかでも岩本はJPドラゴン内に箱(特殊詐欺を行うチームのこと)を作り、他の4人を率いていたとされ、「女版JPドラゴン」と呼ぶ者もいたという。そんなカリスマには少し特殊な事情があった。 ◆子育てしながら特殊詐欺を行えるのか…岩本の正気じゃない人間性 「岩本には子供がいた。まだ5〜6歳ほどの男の子だ。拘束時にはフィリピン人の共犯者が面倒をみていたから、現場にはいなかった」(前出・入国管理局幹部) 父親の所在は不明だという。岩本はシングルマザーとして子育てしながら特殊詐欺を行っていたのだ。同幹部が続ける。 「フィリピンの捜査当局は今年に入り、岩本らを含め特殊詐欺に関与した日本人容疑者少なくとも16人を拘束した。それでもまだJPドラゴンの残党は潜伏を続けており、ナンバー2も野放し状態だ。ヤツらの居場所はわかっておらず、全滅にはまだ時間がかかるだろう」 ″アジト″はほかにも存在するとみられる。闇の組織は、今もフィリピンの地下で蠢(うごめ)いているのだ。(文中、一部敬称略) 『FRIDAY』2025年11月7日号より 取材・文:栗田 シメイ(ノンフィクションライター)