強烈! エロ・グロ・サイコな異常作が多発したイタリアン・ホラーを“再発掘”

日本では特集上映などで限定公開され、幻の名作と噂ばかりが先行した伝説のイタリア製スリラー、『笑む窓のある家』(1976)がついに正式劇場初公開となる。監督はイタリア映画界の名匠プピ・アヴァティ。しみじみとした文芸佳作で高い評価を得ながら、10年に1本のペースで「怖い映画」を発表する異色の作家だ。そんな優良監督アヴァティの恐るべき“もうひとつの顔”が露わになるこの機会に、イタリアン・ホラーの名作・怪作群を再発掘! 勧善懲悪なハリウッド西部劇に対し、アウトローな暴力表現を売り物にした60年代のマカロニ・ウエスタン全盛期を経て、70年代~80年代のイタリアン・ホラーは主題も残酷度もグッと過激化。度肝を抜く異常な問題作が多数作られ、今では再現不可能な血塗られた秘宝、文化遺産としてホラーファンに愛されている。この秋、長き封印を解かれて不気味に開く“笑む窓”の奥を覗き、エロとグロ、サイコな幻惑渦巻く異常なるイタリアン・ホラーを探求しよう。 【奇妙で猟奇的な実話に着想を得た“異常すぎるスリラー”】 大河のほとりに広がるのどかな田園地帯、小さな村の教会でフレスコ画修復を任された青年が奇妙な連続殺人事件に巻き込まれる。真相に迫る手がかりは不審死を遂げた友人が残した謎の言葉――“笑む窓のある家”。 『笑む窓のある家』が誕生したきっかけは、第二次大戦中に幼いアヴァティが疎開先で聞いた怖い話。村人の尊敬を集めた司祭の墓を開けたら、明らかに女性と見られる骸骨が入っていた逸話だ。実話に基づくホラー映画は多いが、そこから“異常すぎる”創作を導き出すのがアヴァティの胆力なのだ。 ●『首だけの情事』(1980)ランベルト・バーヴァ監督 「事実は小説より奇なり」の精神を受け継ぎ、同じく新聞の三面記事を基にしたのが本作。ニューオリンズの古い邸宅を間借りして不倫に耽る女性が、交通事故で愛人を失い、彼の生首を冷蔵庫に保管。夜な夜な取り出しては禁断の情事に身悶える。家主の盲目青年はその痴態に耳を立て、母を憎む思春期の娘は生首の耳を切り取ってスープにして振る舞う。本作でアヴァティは共同脚本と製作を担当。後に『デモンズ』(1985)を撮るランベルト・バーヴァを本作で監督デビューさせた。突然オカルト調になる不条理な結末もショッキング。インモラル全開の愛欲スリラーだ。 ●『新サスペリア』(1986)カミロ・テッティ監督 こちらはイタリア犯罪史に残る未解決連続殺人事件、通称「フィレンツェのモストロ(怪物)」をベースにした実録系スリラー。暗がりに停めた車で逢瀬を楽しむカップルを銃で狙撃。犯行後の遺体損壊に異常な執着を見せた残忍な殺人鬼の正体は諸説あり、容疑者も逮捕されたが、結局は現在に至るまで謎のまま。同事件はトマス・ハリスの小説「ハンニバル」や、少女連続殺人事件を描く『フェノミナ』(1985)の着想源にもなっており、本作では犯罪学を専攻する女子大生の目線で事件を検証しつつ、終盤では犯人像を降霊会で霊視するトンデモ展開に突入する。 85年9月、実質的に最後となったモストロの犯行が発生。州検察官に被害者の遺体の一部が送りつけられ、大騒ぎになったタイミングで本作が急ごしらえされたが、遺族の訴訟で公開は延期に。フィレンツェでは上映禁止処分を受けた。 (文・山崎圭司)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする