【警鐘ルポ】「卒業アルバムの写真」から被害に…最新「ディープフェイク・ポルノ」のおぞましき実態

「何卒よろしくお願いします」 そんな短い挨拶とともに、一般人と思(おぼ)しき女性の写真が続々とアップされている場所がある。匿名性の高さと規制の緩さで知られ、盗撮画像や児童ポルノの温床になっているとの指摘もあるコミュニティアプリ『Discord』の「サーバー」(招待制コミュニティ)だ。 実はこの「サーバー」、近年世界中で問題となっている「ディープフェイク・ポルノ」(以下フェイクポルノ)の愛好家たちの溜まり場になっているという。 著名人の顔と既存のポルノ動画を合成して作られるフェイクポルノ。制作者が逮捕されるなど社会問題化しているが、通常のネットサーフィンでは行き当たることはない。 だが、SNSの非公開グループや秘匿性の高い一部チャットアプリなど、愛好家が集うコミュニティでは日々、膨大な量の画像や動画がやり取りされている。 温床の一つとなっている『Discord』には、フェイクポルノが活発に投稿される「サーバー」が無数に存在し、著名人の顔を使用したポルノが大量にアップされている。共通するのは、いずれもそうと言われなければ本物の動画と見分けがつかないほど精巧である点だ。 そして今、フェイクポルノによる被害は著名人だけでなく、一般人にも及んでいる。 筆者が著名人のフェイクポルノが投稿される「サーバー」に集うユーザーとやり取りをしていると、別の「サーバー」への招待を受けた。 ″術師″と呼ばれるフェイクポルノの制作者に女性タレントや知人女性の顔写真を送ってシチュエーションを指定すれば、自分好みのフェイクポルノを作ることができる「サーバー」だった。 ディープフェイク愛好家を自称するX氏が明かす。 「自分の同僚や同級生など、意中の女性のフェイクポルノ制作を依頼して個人で楽しむ男性が大多数ですが、ストレス発散や嫌がらせ目的で拡散するために、恋敵や嫌いな人物のフェイクポルノ制作を依頼する女性もいるようですね」 尺にもよるが、代金は数千円程度。簡単な短時間の動画なら無償のこともある。有償の場合は「PayPay」で支払い、ファイル転送サービスのダウンロードリンクをDMで受け取って自分のPC等に″納品″する、というのが一般的な取引方法のようだ。 「サーバー」内のチャット画面を見ていると、参加者から″術師″へ次々とオーダーが舞い込んでいたが、前出のX氏は「今後は減っていくだろう」と見ている。ただしそれは、フェイクポルノが下火になるという意味ではない。むしろ逆だ。 「かつてリアルなディープフェイクを制作するには、それなりの技術やノウハウが必要でした。しかしここ数年、誰でも簡単にフェイクポルノを制作できるアプリが登場しています。1分程度の短い動画なら30秒ほどで制作できてしまう。今後は、各愛好家がそれぞれ精巧なフェイクポルノを″自給自足″する時代に入るでしょう」 ◆フェイクポルノを提供するサーバーには小学生の動画も… X氏の案内で辿り着いた別の「サーバー」には、性的な動画や画像ではなく、小学校から高校までの卒業アルバムの数々が投稿されていた。その用途は身の毛がよだつものだった。 「フェイクポルノの″素材″としてやり取りされているのです。未成年のフェイクポルノはネット上に公開するとまずいので、『サーバー』にもアップされません。愛好家が原則個人で楽しむだけ。未成年の一般人の顔写真は、SNSでもほとんど公開されておらず希少なため、愛好家同士が『サーバー』で″素材″を融通し合っています」(X氏) 自分自身や家族、恋人のフェイクポルノが知らないうちに制作されて消費される――考えるだけでおぞましいが、法的に取り締まる手立てはないのだろうか。 性的トラブルに詳しい加藤・轟木法律事務所の加藤博太郎弁護士が言う。 「イギリス、フランス、韓国など諸外国では性的ディープフェイクを刑事事件として直接取り締まるよう法律が制定・改正されています。しかし、日本の場合、名誉毀損罪や侮辱罪、未成年の画像が使われていれば児童ポルノ禁止法を応用して取り締まっているのが現状。 今の法律では、制作者を捕まえても比較的軽い刑罰で済まされます。無断で画像を使われている事実を特定できれば、肖像権侵害など民事で損害賠償を求めることもできますが、個人で生成したり、閉鎖的コミュニティのみで画像がやり取りされている場合、特定はなかなか難しい」 すべての人の尊厳を守るため、付け焼き刃ではない抜本的な対策が求められる。 『FRIDAY』2025年12月19日・26日合併号より 取材・文:奥窪 優木(フリーライター)

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