通貨は“トイレットペーパー”?ひたすら穴掘って脱獄を図るぞ!『Prison Escape Simulator: Dig Out』で知る「刑務所のリアル」

刑務所。この世に生まれたからには、できるだけ入りたくない施設です。しかし、中には刑務所を職場にする刑務官と呼ばれる人たちがいて、さらにその刑務官の家族もいます。実を言うと、筆者自身がまさにその“刑務官の家族”です。 父が八王子医療刑務所(現在は閉鎖)の刑務官だった関係で、筆者は本籍地が静岡県静岡市であるにもかかわらず、生後1か月から高校を卒業するまでは、神奈川県相模原市に在住していました。さらに、中学卒業までは法務省が管理する官舎が自宅でした。 今回は、Steamで配信中の刑務所脱獄ゲーム『Prison Escape Simulator: Dig Out』をプレイしながら、世間一般には知られていない「刑務官の家族の生活」についても解説したいと思います。 ケレン味を見せることが許されない“刑務官”という仕事 当たり前の話から始めてしまいますが、「刑務官の息子」だからといって特殊な環境にいるというわけでは全くありません。基本的には官舎に住み、父の稼ぎが良くなってマイホームを建てられるだけのローンを組めるようになったら引っ越す……という具合です。ぶっちゃけ、「法務省管轄の官舎が住まい」ということ以外は、サラリーマン家庭と何も変わりません。 もっとも、父はバブル期の経済的恩恵を授かることはできませんでした。不景気の時は有利だけれど、好景気の時は何もない。それが公務員です。 そして、刑務官の子は自分の親が普段何をしているのか、ほとんどと言っていいほど知りません。なぜなら、刑務官には厳格な守秘義務があるから。 たとえば「元俳優の○○受刑者は現在××刑務所にいる」というのは多くの場合、本人から弁護士もしくはメディア関係者を経て公表される情報です。たとえそれが周知の事実だったとしても、刑務官が「元俳優の○○は自分の勤務する××刑務所にいる」とは絶対に言えません。 そうした守秘義務が存在しており、しかも刑務官は公の場でケレン味を発揮することが一切できないのです。 自衛官は、取材で訪れたテレビ局のカメラを向けられた際、何か面白いことをしてくれることもあります。警察官も、特殊詐欺や交通事故の防止を呼びかけるため、地元のイベントで歌を披露したり漫談をしたりしてくれます。しかし刑務官には、そのような行為は許されていません。 だからこそ、刑務官はプライベートで多少でも羽目を外さなければやっていけない職業でもあり、普段の服装はかなりラフもしくはスポーティーという面もみられます。少なくとも筆者は、父がフォーマルな格好をしている場面はほとんど見たことがありません。 刑務所内の通貨はトイレットペーパー そんな前置きをしつつ、刑務所で働く刑務官の姿も描かれる『Prison Escape Simulator: Dig Out』をプレイしていきましょう。 主人公は、詐欺で投獄された小悪党。無料駐車場の前に立って偽造の駐車券を販売したり、やはり無料ライブイベントの入口に立って偽造のチケットを売り捌いたりしたせいで逮捕され、投獄されてしまったそうです。 それにしても、コイツは確かにロクデナシかもしれないけれど、人を襲うような悪人ではないように思える……。現に本作では、「刑務官を殴って気絶させる」というようなことはできません。 あくまでも忍耐力に物を言わせ、コツコツコツコツコツコツコツコツ地面に穴を掘り続けて脱獄を目指す内容です。 最初はスプーンで土を掻き分け、なぜか地中に埋まっているアイテムを回収しながら穴を広げていきます。出てしまった土はトイレに流しましょう! アイテムは刑務官に売ることもできます。代わりにもらえるのは現金ではなく、トイレットペーパー。この刑務所では、なぜかトイレットペーパーが通貨の役割を果たします(もちろん、本物のお金もあります)。 それを他の受刑者と物々交換という形で、上位互換の道具を手に入れていくのです。 刑務官はいつも定期的な時間に見回りにやって来るので、その隙を見計らって穴を掘っていきます。なぜか刑務所の倉庫で商売をしているおばさんからいろんなアイテムを手に入れて、作業スピードを上げたり刑務官が来るタイミングを遅らせたりすることも可能です。 “仕事の定型化”が隙を生む このゲームをプレイして分かるのは、脱獄とは極めて地道な作業であること、そしてそんな地道な作業は「外に出たい!」という気持ちだけで支えられているという事実です。 人は目前に希望の光があるからこそエネルギーを発揮します。そして、そのエネルギーが発揮されてしまわないように監視するのが刑務官の役割です。刑務官って、並大抵のストレスでは済まされない仕事だな……ということは、ライターという商売に就いた今だからこそ想像できることでもあります。 刑務官の仕事は、基本的に単調です。毎日同じ同僚、同じ上司、そして同じ受刑者と顔を合わせ、彼らの行動に対していつも厳格でなければなりません。そうであるからこそ、どうしても仕事が定型化していきます。 刑務所での脱獄騒動が発生する時は、いつの時代であれどのような国であれ、“刑務官の仕事の定型化”を受刑者が把握していたからこその現象であるのかもしれません。そのような仕事の定型化に、刑務官自身が(あるいは組織としての刑務所が)どのように対処しているのかは、筆者には残念ながら知見がありません。 ですが、『Prison Escape Simulator: Dig Out』をプレイみると、仕事の定型化を突いた脱獄がこんなに楽しいとは……! などと、不謹慎ながら感じてしまいます。刑務官を手玉に取っているような感覚になり、鼻歌を歌いながら何時間でもプレイできるのです。 ハンバーガー1個分の値段で得られるスリル? そんな受刑者生活(あくまでも海外の刑務所ですが)を体験できる『Prison Escape Simulator: Dig Out』は、Steamにて700円で配信されています。しかも、1月6日までは25%オフの525円で購入できる! 開発者曰く、「ハンバーガー1個分の値段で、数時間のスリル満点の体験が待っている」とのことですが、どちらかというとスリルを追い求める人よりも、コツコツ作業が得意な人がこのゲームに向いているのでは? という感じもします。 それでもSteamでの評価が“非常に好評”な作品であることに変わりなく、年末年始のお供には最適のゲームと言い切ってもバチは当たらないはずです!

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