『さよならノワール』なぜ“犯罪被害者支援”をテーマに? 井上由美子がドラマに込めた願い

多くの刑事ドラマが鮮やかな“事件解決”をゴールに据える一方で、その裏には、深い悲しみを抱えながら生きる被害者たちがいる。けれど、彼らに焦点を当てた物語は、決して多くはない。火9ドラマ『さよならノワール』(フジテレビ系)は、警視庁西池袋署に新設された「犯罪被害者支援室」を舞台にした警察ヒューマンドラマ。犯罪被害者に寄り添うのは、元“マル暴”刑事の夏海(小池栄子)と心理学者役の絵梨子(北香那)という女性バディだ。 脚本を手がけるのは、『きらきらひかる』(1998年/フジテレビ系)、『白い巨塔』(2003年/フジテレビ系)、『愛の、がっこう。』(2025年/フジテレビ系)など、視聴者の心を揺さぶる名作を、時代ごとに送り出してきた井上由美子。演出を手がける河毛俊作とは、『パンドラⅣ AI戦争』(2018年/WOWOW)以来、8年ぶりのタッグになる。井上はなぜいま、犯罪被害者支援をテーマに選んだのか。女性バディだからこそ描ける物語とはなにか。作品に込めた思いを聞いた。 ■「犯罪被害者支援室」は2026年の今だから描けるテーマ ——本作の企画に至った経緯を教えてください。 井上由美子(以下、井上):河毛監督と狩野(雄太)プロデューサーと「警察を舞台に新しい切り口の物語をつくろう」と集まったことが企画の始まりでした。生活安全課やマル暴なども候補に挙がりましたが、以前から興味のあった「犯罪被害者支援室」をテーマにしたいと思ったんです。実は、ずいぶん前にも一度、このテーマを描いてみたいと考えていたものの、被害者支援に対する認知度も高くなく、時期尚早かもしれないと断念しました。でも最近は、交通事故の被害者サポート事業をはじめ、被害者支援への社会的な関心も高まってきているように感じます。2026年のいまなら、視聴者の方にも受け入れていただけるかもしれないと思い、今回提案させていただきました。 ——たしかに、被害者支援に特化したドラマはかなり珍しいように感じます。 井上:私も刑事ドラマをたくさん手がけてきましたが、刑事ドラマや警察ドラマの多くは、事件が起きて、犯人を逮捕するまでを描くもの。リーガルドラマも、裁判で判決がくだるまでの物語になります。もちろん、その裏には必ず被害者の方々がいますが、その人たちに焦点が当たることはあまり多くない。今回は、事件ものではなく“人間ドラマ”として、その人たちの物語を描いてみたいと思いました。 ——実際に犯罪被害者支援についてのリサーチを進める中で、どのような印象を持たれましたか? 井上:犯罪被害者支援に携わる心理士の方にお話を伺って、まず率直に感じたのは、この仕事は、誰もが経験するわけではないような悲劇に遭われた方に寄り添う仕事なのだということです。そこで大切なのは、積極的になにかを言わせようとしたり、無理やり回復させようと働きかけたりすることではなく、たとえ時間がかかったとしても、被害に遭われた方が自らの力で立ち上がる力を信じて、見守ることだと伺いました。お話を聞くことそのものが仕事ですから、とても忍耐を要します。けれど、やはり人が求めているのは、自分の話に耳を傾けてくれる存在なのでしょうね。本当になくてはならない、とても尊いお仕事だと思いました。 ——井上さんが取材で感じられたことが、夏海たちのスタンスにそのまま反映されているように感じました。私は「犯罪被害者支援室」という存在をこのドラマで初めて知ったのですが、井上さんはどのように社会に対するアンテナを張っていらっしゃるのでしょうか? 井上:むしろ、あまりアンテナを張りすぎないようにしています。脚本家として、あるいはドラマ制作者として物事を捉えてしまうと、ニュースひとつにしても「これはテーマになりそうだな」「ネタになりそうだな」などと、どうしてもバイアスのかかった見方になってしまう。それは避けたいんです。ひとりの女性として生きている中で、それでも気になってしまうことがあるじゃないですか。そういうものに対しては、純粋に「知りたい」「ひどい! どうなってるの?」と好奇心を持ったり、憤ったりしたいんです。なかなか難しいんですけど、プロになりすぎないようにしたいですね。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする