わずか3ヵ月で170億円の被害が…記者のもとにかかってきた「警察官なりすまし詐欺電話」の全貌

6月のある日、フライデーデジタルの記者の携帯に一本の電話がかかってきた。ディスプレイには+80から始まる海外の番号が表示されている。応答すると、「警視庁捜査二課の〇〇」と名乗る男が出た。記者の名字を確認すると、 「〇〇(記者の地元)の県警と詐欺事件の合同捜査をしている。何か身に覚えはありませんか」と尋ねてきた。一切覚えがない旨を伝えると、「それはおかしいですね」と続けた。 「あなたの口座が犯罪に利用されている恐れがある。ついては、捜査のために〇〇県警まで来てほしい」 任意聴取のために、わざわざ遠く離れた他県まで出頭する必要があるのか。そう質問すると、「極秘捜査をしていて、あなたも捜査対象となっている」と執拗に不安をあおってくる。 しばらく会話が続いた後、「県警の担当者と代わりますので、このままお待ちください」と言い残すと、今度は別の男が電話口に出て「△△という詐欺事件であなたの口座が使用されていて、重要参考人としてあなたの名前があがっている。本日中に県警への出頭をお願いしたい」とまくしたててきた。 巧妙だったのは、記者の出身地で使用される方言や独特な言い回しを織り交ぜてくることと、不安をあおる文言を強調してくること。刑事事件に対して多少の知識や見識を持っている人間に響くワードの使い方が巧みなのだ。 電話の相手は「出頭を拒否するなら勾留される可能性がありますが、それでも構いませんか」とも述べてきた。任意聴取で勾留されることはない。ここで記者は詐欺だと確信。「任意聴取の上に遠く離れた県警まで出頭するのは難しい。どういう罪状で勾留するのか詳細を教えてほしい」と返すと、今度は「捜査に必要なのでフルネームと生年月日を教えてほしい」と今度は個人情報の引き出しにかかった。 「重要参考人として名前があがっているのなら、フルネームは把握されているはずでは? 私は〇〇県警に知人がいます。あなたのフルネームと階級と所属を改めて教えていただけますか」 こう反撃すると「逮捕されてもいいんですね?」と逆ギレ。その後、しばらく押し問答を続けた末に電話は切れた。 ◆警視庁が強める警戒 昨年4月、警察官になりすました詐欺電話が多発していることを受けて、警視庁は「特殊詐欺対策本部」を設立。HPによると、令和7年度の特殊詐欺被害は3月末時点で276億円にのぼり、うち171億円が警察官を名乗ったものだったという。被害額も年々増加傾向にあり、警視庁も警戒を強めている。 「警察官なりすまし詐欺」自体は古典的な手法なのだが、実際に詐欺電話を体験してみて、練られたマニュアルと「かけ子」の迫真の演技に驚かされた。 冷静に考えれば、国際電話でかかってきていることや、勾留という単語の間違えた使い方、捜査情報をベラベラ話していたことなど“穴”はいくつもあるのだが、あの迫力で不安をあおられたらだまされる人もいるだろうなと納得がいってしまった。 以前、フライデーデジタルの記者が特殊詐欺について取材した際、詐欺グループの幹部はこう話していた。 「これだけ注意喚起され、特殊詐欺の手口が拡散されても、なぜだまされる人が後を絶たないのか? それは『自分は絶対にだまされない』と過信するプライドが高い人間が一定数いるからです。そういう人が一番のカモなんですよ」 怪しい電話には出ない。シンプルだが、これが最善策であることが身に染みたのだった。

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