社説:香港国安法5年 進む抑圧を直視せねば

強まる社会統制の息苦しさに覆われ、かつての自由で開かれた国際都市の活力が失われるばかりではないか。 民主派の排除を目的とした香港国家安全維持法(国安法)の施行から5年がたった。 当局に異を唱える言論やデモなどが徹底的に抑圧され、民主的な団体やメディアなどが次々に解散させられた。厳しい監視と締め付けが市民の不安と萎縮を広げている。 28年前の香港返還時、「高度な自治」を保障すると中国が国際社会に約束した「一国二制度」の変質、形骸化は深刻である。 国安法は、民主化を求める市民の「雨傘運動」に続く2019年の反政府デモの拡大を抑えようと、習近平指導部が主導して20年6月末に施行された。 これまでに同法違反など国家安全関連の逮捕者は330人を超える。国家転覆を防ぐとの名目で、政府に批判的な議員、活動家らが相次いで逮捕され、民主派勢力はほとんど壊滅状態に追い込まれている。 選挙制度も、「愛国者」のみ立候補を認めるとする事前審査制に改変され、議会は親中派で固められた。 残る民主派政党のうち、社会民主連線は先月末に「強い政治的圧力」を理由に解散したと発表。最大の民主党も近く党大会で解散決定する。議会への請願活動まで封じられている。 中国への批判的論調で知られた蘋果日報(リンゴ日報)の廃刊をはじめ、民主派系インターネットメディアの閉鎖も続く。「当局が情報公開をしなくなった」と元記者が訴え、民主主義が青息吐息の実態に胸がふさがる。 昨春には、国安法を補完してスパイ活動の防止などを掲げる国家安全条例も施行。いずれも犯罪行為の定義が曖昧で、当局が恣意(しい)的に市民統制に使っている。 先月にも、中国政府の香港出先機関が国安法問題を直接捜査し、容疑者を中国本土に送って裁判にかけ得ると打ち出した。市民への監視は日本を含む海外在留者や家族らにも及ぶ。 こうした抑圧を避け、海外へ脱出する人が後を絶たない。本土からの移住受け入れで人口減を補うものの、多様な人材が自由闊達(かったつ)に活躍してきた香港発展の原動力を損なっているのは明らかだ。 ウクライナや中東の紛争にかすみがちだが、自由や人権をがんじがらめに縛る社会統制の危うさに世界が目を向けねばならない。

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