【深層ルポ】100人規模の乱闘の真相…「香港マフィア、住吉会、チャイニーズ・ドラゴン同盟」の裏側

〈日本各地でさまざまな事件を引き起こす『匿名・流動型犯罪グループ(通称:トクリュウ)』。SNSなどを中心に、時には顔も知らない者同士が結びつき、犯罪を繰り返すーー。そんな現状を「液状化犯罪時代」と称するのは暴力団を中心に取材するフリーライターの鈴木智彦氏だ。第1回では、今年6月に逮捕者が出た「半グレ、ヤクザ、香港マフィアの同盟の盃事」事件の裏側に迫った。 第2回では、チャイニーズ・ドラゴンが起こした「サンシャイン乱闘事件」の真相に迫る〉 ◆サンシャイン乱闘事件の起点に 警察が「同盟の盃事」で逮捕した白井宇太郎容疑者(53)をチャイニーズ・ドラゴン幹部と呼び出したのは、’22年10月、東京・池袋のサンシャイン60の58階にあるフランス料理店で発生した、チャイニーズ・ドラゴン関係者の乱闘事件からだ。レストランでの食事会は、懲役刑を終えて出所したチャイニーズ・ドラゴン幹部の放免祝いとして開催された…と報じられている。長期刑を務め上げ、娑婆に出てきた幹部が、すなわち今回逮捕された白井宇太郎容疑者だったのだ。 この乱闘事件は、白井容疑者をよく思わないドラゴンの流派のひとつ、上野グループが出所祝いに乗り込んで会場を取り囲み、白井容疑者に圧力をかけようとして起きた。単に食事会に参加するため集まっていたドラゴンの主要メンバーたちは、事情がわからないまま襲撃された側と襲撃した側に分かれ、乱闘が始まった。そのため事件現場には、皮肉なことにほぼドラゴン・オールスターズが揃っていた。事件が大きく騒がれたのは、メンツが豪華だったせいもあったのだ。 放免祝いの会場を包囲してカマシを入れる……とはいっても、レストランは58階にある。エレベーターや階段を使っても一気に全員は上がれず、すぐには会場を囲めない。襲撃グループもまた混成部隊で、うまく意思疎通ができていなかった。よくわからないまま若い世代が最初に会場に到着したが、彼ら新世代ドラゴンは古参幹部の顔を知らなかったので、売り言葉に買い言葉で乱闘が始まったのだという。 仲間内で喧嘩になっているのは、双方がすぐに把握した。そのため喧嘩はすぐに終わり、警察から逃げるため散会した。直後、ドラゴンの襲った側と襲われた側が集まり、飲み会を開いて和解している。 警察はこの事件で、白井容疑者の名前を伏せたまま、彼をチャイニーズ・ドラゴン幹部だと発表した。なにか意図があるのだ。警察発表の変化は、白井容疑者の起こした事件の過去記事を調べてもはっきりしている。 放免祝いの主賓……白井容疑者の長期刑は、’07年、山梨県内の貴金属加工工場2ヵ所に押し入った強盗致傷事件だった。鉄パイプで従業員を殴って骨折させ、工場長を粘着テープで縛り上げたのち、現金や指輪など合計約1億4900万円相当を盗んだ事件で、懲役12年の判決が下されている。 このときの報道では、白井容疑者はあくまで「中国残留孤児2世で、新宿などを拠点に活動する犯罪グループのリーダー」(産経新聞。’11年5月19日)と書かれており、ドラゴンの名前はどこにもない。警察は彼がドラゴンではないと正確に把握していたし、残留孤児2世・3世に存在する不良たちは、ドラゴン以外の人間が多数派だという実態も理解していただろう。 「(白井容疑者は)若いときに大久保に出て、新宿のキャッチを仕切るOの舎弟になった。そのOも日本の中華人脈の中では有名な不良だったけれどもドラゴンではない。Oは’23年の12月30日にコロナで亡くなった。彼はその地盤を引き継いでいる。 Oはドラゴンの幹部たちと同年代なんです。昔なじみで、ずっといい関係にはあった。その縁でドラゴンの関係者に寄り添ってる人間たちもいる。(白井容疑者も)残留孤児2世だし不良だったから、ドラゴンのメンバーたちとは顔なじみ。彼らにしてみれば、周りが勝手にドラゴンだというのだから放っておけということ。ただ、乱闘事件が起きたことをみてもわかるとおり、白井容疑者の場合、友好関係ばかりではない。あちこちの派閥に顔を出し、若い衆を引き抜こうとしてトラブルになったこともある」(彼らを知る残留孤児2世) 白井容疑者にしても、自身がドラゴン幹部と語ったことはないはずだ。あくまで警察がそう発表し、プレスリリースを鵜呑みにするマスコミが、誤った見解を拡散しているにすぎない。 そもそもチャイニーズ・ドラゴンとは、警察が使う便宜的な残留孤児マフィアの総称である。この呼び名が使われるようになったのは、’13年、警察庁が半グレを“準暴力団”というカテゴリと定め、『怒羅権』と『関東連合』OBの2つを指定してからだ。 指定とはいってもただ警察がそう呼んでいるというだけである。準暴力団にはなんの縛りも規制もないのだが、組織名を挙げて指定してしまったので、警察は意図的に残留孤児の不良グループすべてをチャイニーズ・ドラゴンと触れ回り、残留孤児2世・3世の不良たちすべてを、準暴力団としたいのだろう。そればかりか警察は不良中国人の犯罪も雑駁に「ドラゴンのメンバーによるもの」と発表している。現状、中国人がらみの組織犯罪は味噌もクソも一緒で、なんでもかんでも“ドラゴン”がらみにされてしまう。 ◆創設メンバーを名乗る男 事件のたびに名前だけが連呼され、一人歩きして裏社会の伝説めいてくるドラゴン。そのなかで「ドラゴン創立メンバー」「ドラゴン初期メンバー」と名乗る人物も現れた。それが汪楠(ワンナン)氏だ。 彼は’21年、自身の半生記『怒羅権と私 創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』を上梓した。しかし、実際の創設メンバーたちに取材したところ、実態は後のドラゴン幹部が小中学生時代、日本人の少年たちと喧嘩して回っていた際に、ときたま同行していただけなのだ。汪楠氏は後の暴走族である怒羅権や、後述する愚連隊色の強い『華魂(ドラゴン)』とは一切関係がない。 メディアは極悪非道で知られるドラゴンのメンバーが改心し、刑務所の受刑者に本を差し入れ、更生支援を行う慈善家になったと持ち上げた。だが、汪楠氏は’21年に千葉県のカラオケバーからみかじめ料を取ろうとして逮捕されてしまう。そればかりか2年後の’23年10月には、池袋のマンションで起きた強盗事件で逮捕され、現在、社会不在中だ。ちなみに彼は中国のSNSで反日の闘士として持てはやされている。フェイク・アウトローは日本人ばかりでなく、中国人すら手玉にとっているのだ。 取材・文:鈴木智彦

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