12歳の少年が見た昭和36年「巨人・大鵬・卵焼き」日本はベルリンの壁がなくてよかった プレイバック「昭和100年」

<当時の出来事や世相を「12歳」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。> 去年は国会を何万人もの人が取り囲んで「アンポ、ハンタイ」と騒いでいたが、最近は静かなようだ。ああいう人たちを「アカ」「左翼」と呼ぶのだと、明治生まれの祖父は苦々しい顔で言っていたが、逆に最近は「右翼」という人たちの事件が相次いでいる。 皇族を侮辱するような「風流夢譚(ふうりゅうむたん)」という小説を載せた出版社の社長宅に今年2月、17歳の少年が侵入し、家政婦さんを刃物で殺したのだ。年末には右翼団体がクーデターを起こそうとして逮捕される事件もあった。去年は社会党の浅沼稲次郎委員長が演説中に刺殺される事件があったばかりだが、こちらも犯人は17歳の右翼少年だった。 僕は右翼も左翼も極端だと思うが、先の戦争はその両方が原因だったと父はよく言う。「右」は二・二六事件を起こしたような軍の一部、「左」はソ連とつながっていたような共産主義者だ。ただ、当時の右も政治や経済の「全体主義」という考え方はほとんど一緒で、どちらも戦争の混乱を通じて日本の革命を目指していたという。 なぜ父がそんな難しいことを知っているかというと、父は村一番の秀才で戦前のエリートとされた陸軍士官学校の生徒だったからだ。正確にはその付属のような陸軍幼年学校に14歳で入学し、士官学校の予科に上がったところで終戦を迎えた。「軍人が一番安定した職業だ」と祖父に勧められ、父の兄も優秀な士官学校生だったが、終戦直前に戦死したという。 学校も閉鎖され、ほとんどの同期は戦後の大学に入り直したが、父は進学しなかった。今は友人の大半が大企業に勤める中で、昼は工場で働き、夜は図書館に通ってあの戦争とは何だったのかを、ずっと一人で考え続けている。 今年の大きなニュースは何といっても、4月にソ連の宇宙飛行士ガガーリンが人類で初めて有人宇宙飛行したことだ。「地球は青かった」という言葉に僕が感動していると、父は「ケネディが黙っちゃいないな」と言った。ケネディとは1月に43歳の若さで米国の大統領になった人で、今後米ソの宇宙開発戦争はますます激しくなるという。 父の言う通り、ケネディ大統領はさっそく5月に「アポロ計画」を発表し、10年以内に人類を月に送ると言い出した。日本ではこの秋からようやく、東京―札幌間にジェット機が飛ぶようになったばかりだというのに差がありすぎる。

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