事件から39年、絶望の先にあった希望 福井・中3殺害、再審無罪

「無実の者は無罪。裁判所はしっかりと判断してほしい」 福井女子中学生殺害事件で有罪が確定した前川彰司さん(60)に、名古屋高裁金沢支部は18日、再審無罪の判決を言い渡した。 事件発生から39年を経て、裁判所は前川さんの訴えをようやく受け入れた。 絵に描いたような青年期ではなかった。中学時代はバスケットボール部の活動に打ち込み、1年生から先発メンバーとして試合に出た。しかし、次第に生活が荒れ始め、不良仲間とつるんで遊ぶようになった。 事件は1986年3月に起きた。女子生徒が殺害されたことはリアルタイムで把握していなかった。被害者と面識はなく、後で知人から聞かされ「そんなことがあったんや」と受け止めた。 ところが半年ほどたって「疑われてるよ」と情報が入ってくるようになった。素行の悪さから警察に事情を聴かれたことも確かにあったが、「接点がない」とされていたはずだった。 殺人容疑で逮捕されたのは事件から1年後。「前川さんが事件の犯人だ」とする知人の供述が引き金だった。 当時21歳。「親の育て方が悪かった」「被害者と交際していたらしい」――。根拠のないうわさが独り歩きした。非行歴のある前川さんを信じる人は、ほとんどいなかった。 警察の取り調べでは犯行を認めるよう迫られたが、「違うものは違う」と一貫して無実を訴えた。1審では無罪とされたものの、2審で懲役7年の逆転有罪を言い渡され、服役した。 ◇父母の存在支えに それでも心は折れなかった。「警察や検察は明らかなうその証拠で殺人という罪を自分に着せた。国家権力がうそを利用していいわけがない」。心に宿った怒りは消えなかった。 「無罪が出るまで頑張ろう」と声をかけてくれた父、「絶対に裁判をやり直してもらおう」と強く望んでいた母の存在も支えになった。 前川さんは潔白を証明して人生をやり直すため、再審を求めることを決意する。有罪判決後に洗礼を受けた、キリスト教の信仰も心のよりどころだった。 第1次再審請求で開始決定が出た後、取り消される憂き目にも遭ったが、支援者や弁護団に支えられ、第2次再審請求で再審の扉をこじ開けた。 「ハードルはあまりに高く険しく、絶望に近いものがある。されどその向こうに希望のともしびがともっているのもまた事実」。捜査当局と司法判断に翻弄(ほんろう)された半生を前川さんは、そう振り返る。 自分を犯人視した知人を恨む気持ちはほとんどない。むしろ、その知人の供述にしがみつき、自分を犯人に仕立て上げた警察や検察が厳しく非難されるべきだと思っている。 母は亡くなり、高齢の父は施設で暮らす。 「無罪と判断してもらったよ」。2人のために、しみじみと祝杯を上げるつもりだ。【国本ようこ】

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