2023年5月、長野県中野市で男女4人を殺害した罪に問われている男の裁判員裁判。被告の男が、初公判から一貫して黙秘を続ける中、24日、検察側の求刑が行われます。 事件について何も語られていない、これまでの裁判を振り返ります。 殺人と銃刀法違反の罪に問われているのは中野市江部の農業・青木政憲被告(34)。 2023年5月25日、散歩中だった女性2人と通報を受けて駆け付けた男性警察官2人をハーフライフル銃やナイフで殺害したとされています。 9月4日の初公判。 (青木被告)「黙秘します」 起訴内容について問われこう答えた青木被告。 被告人質問でも…。 (弁護人)「私の質問に答えられそうですか?」 (青木被告)「全ての質問に黙秘します」 一貫して黙秘を続ける青木被告に対し、事件で母親を奪われた男性が質問を投げかけます。 (母親を殺害された男性)「母の最期を見たのはあなたです。やめてとか、痛いとか言っていませんでしたか?」 (青木被告)「黙秘します」 (母親を殺害された男性)「私たち家族は、何があったか知りたいです」 (青木被告)「黙秘します」 (母親を殺害された男性)「黙秘します以外の言葉はありませんか?」 (青木被告)「・・・なにもありません」 これまでの裁判で、事件について何も語ろうとしない青木被告。 逮捕された際の取り調べでは4人の殺害を認めていました。 しかし、初公判の直前…。 青木被告の弁護人 「本人はぼっちとか、きもいとかいう言葉に苦しめられてきたわけですけども、裁判が近づくにつれて、これまで誰も聞いてもらえなかったということを思い出して、この裁判においても、何を話をしても、きっと自分は信じてもらえないんだろうという気持ちになって、この黙秘をするという権利を行使するに至りました。おそらく私としては、これも本人の症状の一つなのかなというふうには思っています。」 裁判の争点は、青木被告の刑事責任能力の程度と、それに伴う量刑です。 弁護側が主張するのは、脳の働きの誤作動によって、考えや気持ちがまとまらなくなる「統合失調症」の症状です。 北信総合病院精神科 山本和希医師 「(統合失調症とは?)代表的なものは幻覚、妄想と言って、幻聴=いない人の声が聞こえてきたりとか、被害妄想という、まわりから悪く思われている、狙われているとか、そういう被害的な思いにとらわれるというのが、よくある代表的な症状です。」 青木被告は大学入学後に、同級生などから「ぼっち、きもい」と言われている妄想を抱くようになり、3年生の時に大学を中退、中野市の実家に戻りました。 証人尋問で青木被告の母親は、「軽い心の病だと思い、家族の愛情で回復していく」として病院の受診はしなかったと述べました。 実家に戻り農業を続ける中で、一時的に治まっていた妄想の症状。しかし、事件の1、2年前、毎日家の前を散歩していた女性2人から「ぼっちだね、きもいね」という声が聞こえる妄想が、再び現れたといいます。 裁判5日目に行われた証人尋問。 弁護側の精神鑑定を担当し「統合失調症」と診断した男性医師は、犯行時、被告は「妄想などの症状が再発し、悪化した状態」だったと証言。弁護側は、犯行は妄想に支配されていたとして「心神耗弱」を主張しました。 一方、検察側が行った精神鑑定では「重度の妄想症など」の診断が出ています。 北信総合病院精神科 山本和希医師 「(妄想症とは?)統合失調症との違いは、統合失調症みたいに言動のまとまらなさとか、支離滅裂になったりというような、そういう症状は出にくくて、妄想以外の日常生活は多くの場合は普通に送っている。まったく善悪の判断がつかないとか、そういうふうになるとは、(一般的に)精神医学的にはあまり考えにくい。」 検察側の精神鑑定を行った男性医師は、証人尋問で「妄想症は、女性2人に対する殺害の動機付けに影響したが、殺害行動には影響していない」と証言。 また、警察官2人の殺害についても「逮捕を逃れるための行動で、妄想症などの影響はなかった」としました。 検察側は、犯行に病気の影響はなかったとして、青木被告の「完全責任能力」を主張しています。 22日には、青木被告の刑の重さを判断する際に考慮される事情、「情状」について取り扱われました。 証言台に立った青木被告の父親に対し、遺族の代理人は。 (遺族代理人)「いまの被告人の態度。反省は感じられますか?」 (被告の父親)「これも病気のせいだと思う」 (遺族代理人)「眠そうに見えますが」 (被告の父親)「(裁判に)興味がないのだと思う」 (遺族代理人)「反省はしていない?」 (被告の父親)「ということになる」 これまで8日間に渡って進められてきた裁判は、24日に検察による求刑が行われ、26日に結審します。 被告が何も語らない中、判決は10月14日に言い渡される予定です。