山奥で発見された死体は、顔を潰され、歯を抜かれ、両手首まで切り落とされ…予想を覆す出来事に翻弄される長編ミステリ『失われた貌』 読みどころを作家・青崎有吾が語る(Bookレビュー)

羽化は済んだものとばかり思っていたが、実はまだ、蛹にすらなっていなかったのかもしれない。 一作目『サーチライトと誘蛾灯』が刊行されたとき、櫻田智也という作家は、泡坂妻夫リスペクトとトリッキーな構成を売りとする、ユーモアミステリの担い手に見えた。二作目『蝉かえる』では爽やかな筆致を維持しつつ、社会性の反映と謎解きのロジックにも注力。小説的な完成度がぐっと増し、高い評価を獲得した。三作目『六色の蛹』でもこの路線に磨きがかかり、櫻田智也は早くも作家として完成されたのだ、と思っていた。……のだが。 最新作『失われた貌』は、これまでとは毛色の異なる長編県警小説であるという。一読して、さらに驚いた。カッチリしているのに中心は温かい、あまりない読み味の警察小説なのだ。つくづく追いかける価値のある作家である。そういえばデビュー前は、ウェブメディア「デイリーポータルZ」のライターであったとか。まだまだ隠していそうですね、抽斗を。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする