人が人に接触して情報を収集する活動を「ヒュミント(HUMINT)」といい、時に国の機密情報が漏洩する事態にまで発展することがあります。このヒュミントについて、一社)日本カウンターインテリジェンス協会代表理事で、諜報事件の捜査従事した経験を持つ稲村悠さんは、「相手を籠絡することで、他の情報収集手段では到達できないような情報を提供させるほどの強力な力を発揮する」と語ります。そこで今回は、稲村さんの著書『謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法』から一部を抜粋し、さまざまなヒュミントの手法をご紹介します。 * * * * * * * ◆ヒュミントとは ヒュミントは、諜報活動の中でも特に古くから用いられている手法で、「人」を情報源とする情報収集活動およびその成果物の総称である。そもそも、ヒュミントは諜報活動だけではなく、多くの場面で活用される。その手法は思いのほか広範で、人脈形成や面接、尋問、単純な会話や監視・観察まで多岐にわたる。 また、外交官による情報収集活動も、公然のヒュミントといえる。彼らは赴任地で公的な身分のもと、公然と現地の政府高官らと交流を図る。現地コミュニティと意見交換も行い情報収集する。時には現地の状況を目で見る。これもヒュミントなのである。 もっとも、決定的な機密情報は公然とは入手しづらい。そうした内容を得るうえではどうしても秘密裏の活動が重視される。また、公然の関係であっても、表向きの活動や肩書の奥に目的が隠されている場合もあり、どこまでが真に「公然」といえるのか。実務的には一線が曖昧であることも否めない。 世間のイメージが強いのは、秘密裏に行われる「スパイによるヒュミント」であろう。これは、公然と行われるヒュミントとは一線を画す。政治家や軍事関係者に対して直接的な接触を行い、籠絡し、機密情報などを収集する手法で、冷戦期に特に多く見られた。また、諜報員が敵対組織や敵国に直接潜入し、情報を収集する手法もある。極めて高度な情報を得られる可能性がある一方で、暴露の危険と常に隣り合わせで極めてリスクが高い。 最もオーソドックスな手法は、諜報員がエージェントを運用して情報を収集する手法である。その典型例として次の事件があげられる。