福島県双葉町の3区域、バリケード開放で出入り自由に 防犯に課題も

福島県双葉町で「特定帰還居住区域」(居住区域)に認定された3行政区で4日、立ち入りを規制していたバリケードが開放され、区域内に自由に出入りできるようになった。帰還を望んだ人の住宅や周辺を除染し、来年度中の避難指示の解除をめざす。居住区域は県内6市町村にあるが、居住エリアのバリケードが開放されるのは初めて。 午前9時、町北部の下長塚行政区の入り口にあったバリケードが委託業者によって開かれると、双葉署のパトカーや町が委託している青色灯をつけた車がパトロールのために区域内に入っていった。 開放を見届けた後、区域内に入った行政区長の福田猛雄さん(72)は「バリケードがなくなって、入っていいのか不思議な感じ」ともらした。今は相馬市で暮らし、週に2回ほどこの場所に来ている。 約3カ月前に自宅の解体が始まり、その前に写真などの貴重品を運び出した。「1年後には戻れるかな。家の周りには植木や花を植えたい。夜は家の明かりがたくさんついているといいな」と話した。 この日、町内でバリケードが開放されたのは、下長塚のほか、三字、羽鳥の3行政区の約110ヘクタール。約60世帯が対象で、半分の除染が終わり、年度末には8割を終える見込み。 1人で車に乗って自宅を見に来た女性は「家が草で覆われて入れない」と嘆いた。 区域内に自宅がある建設会社長の福田一治さん(54)は会社と自宅のあるいわき市と、双葉町を行き来している。「喜んでいいのか、悪いのか。復興の意味では前に進んでいる。簡単に入れるようになるのはいいが、心配も増える」。自宅には、浜通りの伝統行事「相馬野馬追」の鎧(よろい)など大切なものを残してあるからだ。近く移動させるという。 故郷の自宅へは「家族で帰りたい気持ちはある」という。ただ、「それは、震災前と同じ環境が整った場合のこと」と、原発事故から14年半余りで変わり果てた区域内の現実を指摘した。 伊沢史朗町長は「町民の利便性の向上や帰還への機運醸成はもちろん、居住区域の避難指示解除に向けた大きな前進ととらえております」とのコメントを出した。(大久保泰) ◇ 居住区域は、双葉町のほかに大熊、浪江、富岡の3町と葛尾村、南相馬市で認定されている。それぞれ、住民の帰還に向けて除染が続いている。 避難指示の解除前にこれらの区域に入るには、住民の要望があり、空間放射線量などに問題がない場合、国と町が協議して「規制緩和区域」を設定。立ち入りが緩和される。今年7月、浪江町の墓地がある場所への立ち入りが緩和されたが、住宅のある場所では今回が初となる。 これまで住民らはバリケードのある場所で通行証を示して出入りしていたが、規制緩和に伴い誰でも自由に出入りできるようになる。一方で、防犯上の懸念も増える。 県内の被災地では9月、大熊町の帰還困難区域にある空き家に侵入したとしてウクライナ国籍の男性3人が邸宅侵入容疑で逮捕された。10月にはフランス人ユーチューバーが浪江町の空き家内で撮影したとみられる動画を配信した。 双葉町では、委託業者による戸別巡回を行い、警察車両による巡回も依頼している。下長塚に近い町営駅西住宅管理組合の国分信一組合長(75)は「人が自由に出入りできるようになると、たばこの投げ捨てなどのリスクも出てくる。町内にいる消防団員は少なく、初期消火が難しい」と不安を口にした。(大久保泰)

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