老人施設で起きた高齢者35人なりすまし投票偽造 悪用の不在者投票制度、性善説は限界

7月投開票の参院選を巡り、大阪府内の住宅型有料老人ホームの関係者が、入所者35人になりすまして不正投票したという公職選挙法違反事件が発覚した。ここまで大規模な投票偽造事件の摘発は異例だが、福祉施設では過去にも同様の事件が起きている。外部の目が届きにくい〝密室〟的な環境で不在者投票制度が悪用されている形だ。専門家は「第三者の監督が必要」と性善説に基づく制度の限界を指摘する。 ■特定の候補者名記載 舞台となったのは、運営会社が同一の大阪府八尾市と同府泉大津市の住宅型有料老人ホーム。大阪府警が公選法違反(投票偽造)容疑で、両施設を統括していた元エリアマネジャーの30代男性ら関係者3人を書類送検していたことが、10月中旬に明らかになった。 男性の書類送検容疑は共謀し、両施設の50~90代の計35人の入所者になりすまして投票用紙に無断で特定の候補者名を記載し、選挙管理委員会に送ったとしている。男性らは入所者が不在者投票制度の利用を希望したと偽り、選管に投票用紙の交付を申請していた。 なぜこれほど大がかりな不正投票に手を染めたのか、動機などは明らかにされていない。 不在者投票は、投票日に仕事などで都合のつかない人が利用する印象が強いが、選管から指定を受けた病院や老人ホームの入所者も施設内で投票できる。 総務省によると、令和4年の参院選における、全国の指定施設は計約2万4千カ所。うち老人ホームは約1万3千カ所だった。大阪府内では今年7月時点で1247カ所の老人ホームが指定されている。 ■「立会人」細かな資格要件なく こうした施設で不在者投票を実施する場合、入所者は「立会人」のもとで投票用紙に記入する必要があるが、立会人は選挙権があれば足り、細かな資格要件が定められているわけではない。 選管職員や選管が選任した人物が施設に赴く「外部立会人」の活用も推奨されているが、あくまで努力義務。複数の自治体関係者は「外部立会人の利用は、ほとんどない」と明かす。 八尾、泉大津の両市選管によると、今回の事件でも両施設は外部立会人を利用していなかった。施設の運営会社は事件について「(書類送検された3人の)独断による行為で、当社として指示・関与した事実はない」とするコメントを出しており、取材に対し、両施設の不在者投票の運用状況は「把握していない」とする。

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