物語の「9分の3が解決編」でアツい 犯人を名乗り出る者が続出する中、探偵は密室トリックにどう挑むか(Bookレビュー)

霞流一『スカーフェイク 暗黒街の殺人』(原書房)が熱い。なんと九章構成の第三章以降がすべて“解決編”なのだ。 三つのギャング組織が勢力を争いながら支配している街。その組織の一つから他の組織に鞍替えした鮫肌の哲が殺された。現場は密室。三組織のボスたちは、警察にダミーの犯人を出頭させる一方で、真相究明を探偵・邪無吾に依頼した……。 この密室殺人は、特殊な展開となる。大物である鮫肌の哲を殺したのは自分だと主張する者が続出したのだ。かくして邪無吾は、彼らが主張する密室トリックを検証する羽目になる。それ故に読者は、フーダニットの大枠のなかに倒叙ものの密室ミステリがいくつも敷き詰められた構成を満喫できるのだ。特筆すべきは、邪無吾は、各人が語る“密室トリックの可否”ではなく、成立しうるその密室トリックについて“現場の証拠との矛盾の有無”を吟味するという点だ。読者にはその矛盾となる情報を予め提示してあるため、トリックそのものに加え、その不成立を証明する伏線の冴えという面でも推理の刺激を満喫できる仕掛けだ。もちろん大枠のフーダニットにも趣向が凝らされていて大満足。

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