証券取引の信頼を揺るがす不正への対策を徹底しなければならない。 相次ぐ証券口座の乗っ取り事件で、警視庁などが金融商品取引法違反(相場操縦)と不正アクセス禁止法違反の疑いで中国籍の男2人を逮捕した。 一連の被害で初の摘発という。容疑では、証券会社の他人名義の口座に不正にアクセスし、連続して買い注文を出して特定の銘柄が盛んに売買されていると偽装。株価をつり上げた上で別の口座で株を売り抜け、利益を得た疑いが持たれている。 この株は約3割値上がりし、約860万円の利益を得たとされる。 日本証券業協会や金融庁によると、口座乗っ取り被害は1〜10月に9300件以上確認され、額は計7100億円超に上っている。 背後には相場操作を巡る組織の関与が疑われ、今回の事例も氷山の一角とみられる。 株式市場の信用を損いかねず、警察には証券取引等監視委員会とも連携し、事件の全容解明が急がれる。 逮捕事案を含め、不正アクセスの手口は、メールなどで証券会社の偽サイトに誘導し、IDやパスワードを入力させて盗む「フィッシング詐欺」が多いとされる。 このため、証券各社では春以降、ログイン時に刻々と変わるワンタイムパスワードや、生体認証など複数の手段で本人確認をする「多要素認証」設定の必須化を進めた。 不正取引件数はピークだった4月の約3千件から、10月は300件台と減少傾向にある。 ただ、対策のワンタイムパスワードを盗み取るようなフィッシングメールも出ているとされ、被害は続いている。 背景には、急速に広まったインターネットでの株式売買がある。 政府が旗を振る「貯蓄から投資へ」の一環で、少額投資非課税制度(NISA)の拡充により、個人投資家の証券口座が急増している。 被害の拡大を受け、店頭で顧客対応する大手は、売却された全株式を返す原状回復の措置を取った。一方、ネット証券大手は被害額の50%補償などと対応が分かれている。 被害者の会が結成され、証券会社や金融庁に対し、公平な全額補償体制の整備や防止策の徹底を求めている。 投資家側も、手軽なネット取引の危険性を認識した上で、安全管理が欠かせない。