ロンドンを彩る「路上のピカソ」のガムアート 日本に縁ある作品も

英国の首都ロンドンで、路上に吐き捨てられたガムをアートに昇華させる「チューイングガムマン」が20年以上活動を続けている。世界中から街に集う人たちの思いを投影した作品は、多様性を表現するとともに、時を超えて思いをつなぐ役割を果たしている。 ロンドンを拠点に活動するアーティスト、ベン・ウィルソンさん(62)は2004年、ゴミを使って「消費社会への疑問」を表現するアートに本格的に取り組み始めた。小さくて描きやすく、長く残るガムを「キャンバス」に選んだ。 ガムには樹脂塗料を塗って下地を作り、エナメル塗料で色づけしていく。ロンドン中心部の歩道橋「ミレニアムブリッジ」を主な拠点として活動し、完成した作品は道にはりついたまま路上を彩っている。 絵の題材は、往来する地元住民や観光客からのリクエストで決めることもある。日本人観光客との交流もあり、11年の東日本大震災後に「がんばろう 東北」の思いを込めた絵を描いたこともある。 ウィルソンさんが大切にしている「隠された美」の意識は、日本を題材にした映画とも共通するという。23年のカンヌ国際映画祭で主演した役所広司さんが男優賞を受賞した「パーフェクトデイズ」(ビム・ベンダース監督)は、公衆トイレ清掃員の日々の充実感を描いた映画だが、「日常への祝杯」を表している点にウィルソンさんは共感している。 ジャケットを絵の具のパレット代わりにしながら、橋に通って「ガムアート」の制作に励むウィルソンさん。過去には公共物を損壊しているとの容疑で逮捕されたこともあるが、活動を知る人たちが味方になって証言してくれたことで疑いは晴れた。 度々取材を受け、地道に作品を増やす中で「チューイングガムマン」の異名でも知られるようになった。英紙ガーディアンには「路上のピカソ」とも紹介され、今は「やっと会えた」と言われる有名人だ。 ミレニアムブリッジでふと視線を落とすと、いつかの誰かの思いを描いた作品に出会える。「無機質な橋の上で描いているが、誰かと誰かをつなぐ橋を作っている気がするんだ」【ロンドン猪森万里夏】

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