ミステリ作家はなぜ「事務仕事ができない抜けた人」になったのか

作家の芦沢央(よう)さんのエッセイ連載が始まりました。ミステリの名手であり、ホラーや純文学なども手掛け、直木賞の候補に2度選ばれたこともある芦沢さん。それなのに、仕事以外の場面で「どんな仕事をしているの?」と質問されるたびに、いつも上手く答えられないそうです。いったいなぜでしょうか?(編集部より) ●“自称ミステリ作家”の胡散臭さ 仕事以外の場面で職業について訊かれたとき、何をどこまで答えるのが最適解なのだろう。 たとえば近所の人、たとえば子どもの保育園や小学校で知り合ったママ友、たとえば久しぶりに会った元同級生。 「どんな仕事をしてるの?」 という質問を投げかけられるたびに、私は毎回慌ててしまう。今時、そんな質問をされる機会もそうないのでは? と思うかもしれないが、私は平日の昼間に家の近くで目撃されることが多いせいか、意外とよく訊かれる。そして、そのたびに上手く答えられず、後で「ひとり反省会」をすることになる。 先日も、同じマンションの住人に仕事について訊かれ、「えーと、物書き的なことを少々……」と中途半端な濁し方をしてしまった。 小説家だと答えれば、書いているジャンルやペンネームを尋ねられるからだ。主にミステリを書いていると説明して「ああ、崖の上で犯人が自白するやつ」と微妙に誤解されてしまうのはまだいいが(ちなみに、崖の上で犯人が自白する話はまだ一度も書いたことがない)、ペンネームを答えるのが地味にしんどい。 大抵の場合、相手は芦沢央という名前を知らず、「ごめんなさい、あんまり本を読まなくて……」と恐縮させてしまったり、「あ、なんか聞いたことあるかも?」と気を遣わせてしまったりする。しかもこの時点で、相手からすれば私は自称ミステリ作家の無職である。胡散臭いことこの上ない。 (そういえば、この間自称ミステリ作家の男性が温泉の女湯に侵入したところを逮捕されたというニュースを見かけたが、自称+ミステリ+作家という組み合わせはどうしてこうも胡散臭いのだろう。児童文学やSFではここまで胡散臭くならないことを考えると、やはりミステリ自体が犯罪のイメージと繋がりやすいのか?)

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