底冷えする12月28日の夕刻。下北沢にある小劇場前には、年末の穏やかな空気とは無縁の異様な緊張感が張り詰めていた。 この日、俳優・新井浩文(46)が一人芝居『日本対俺2』の舞台に立ち、芸能活動を再開させた。だが、約7年の沈黙を経ての復帰にもかかわらず、現場を包んでいたのは重苦しい空気だった。 「新井は’19年2月、派遣型マッサージ店の女性従業員に対する強制性交罪で逮捕・起訴され、懲役4年の実刑判決を受けました。かつては映画やドラマに欠かせない名バイプレイヤーでしたが、性犯罪という現実は重く、事実上の追放状態にあった。刑期を終えたとはいえ、今回は自主企画に近い形での強行復帰。ネット上では今なお厳しい批判の声があり、まさに“四面楚歌”の中での再始動です」(スポーツ紙芸能記者) そんな”いわくつき”の現場とあって、劇場前には30人を超える報道陣が集結。さらに、復帰を待ちわびていたとおぼしき女性ファンも20人ほどが寒空の下で出待ちをしていた。色紙を大事そうに抱えた女性ファンは、こう心情を吐露した。 「チケットに応募したんですけど、外れてしまったんで…。どうしても一目見たくて来ました」 夕方5時、舞台の幕が下りると、現場のボルテージは一気に高まった。会場の2階から観客が続々と降り始め、狭い劇場前の通りは100人近い人たちでごった返し状態に。その中には同じく日替わりゲスト出演で名前が挙がっている俳優の荒川良々(51)や、観客として訪れていたであろう『Dragon Ash』のKj(46)、タレントのYOU(61)といった錚々たる面々の姿もあった。 かつて飲み歩いた「夜の街の仲間」や共演者たちが世間の風当たりなど意に介さず、新井の再出発に駆けつけた格好だ。 ◆非難は避けられない”ちぐはぐな対応” 「車が通るから道を開けてください! 道を開けて!」 ごった返す群衆を前に、運営スタッフが声を張り上げる。メディアとファン、そして退場する観客をさばく慌ただしさに、報道陣の誰もが「いよいよ新井が出てくる」とカメラを構えた。 ――しかし、観客がはけ、著名人の姿が見えなくなっても、肝心の主役は現れない。不思議な静けさが漂い始めた頃、スタッフが無情にもこう告げた。 「新井はもう出ました」 正面出口に張り付いていた報道陣からは、「えっ?」「いつの間に?」と困惑の声が上がる。まさに”神隠し”のような退場劇。長時間待ち続けた現場からは、あからさまな不満が噴出した。この退場劇に対して、ある記者が食い下がる。 「出たなら、どこから出たか説明してくれないと……僕らも(中に)いる可能性がある限り、ここにいるしかないんですよ」 また、別の記者も建物の構造を見上げながら首を傾げた。 「裏に出口はなさそうだし、他の場所から出たとはとても思えない」 新井は復帰前夜に自身の『X』(旧Twitter)で、 《明日、写真もサインも時間がある時はいくらでもどーぞ》 と、ファンサービスに前向きな姿勢を見せていた。しかし蓋を開けてみれば、色紙を握りしめて待っていたファンや報道陣を完全にシャットアウトする形での”ステルス帰宅”。こうしたちぐはぐな対応に、ある舞台関係者は厳しい視線を向ける。 「今回の対応は、役者としての復帰の”覚悟”を疑われかねません。性犯罪というレッテルがある以上、地上波や大手映画への復帰は絶望的で、彼が生き残る場所はこうした小劇場しかない。応援してくれるファンや仲間はありがたい存在ですが、世間一般の目は依然として厳しいままです。SNSで余裕を見せておきながら、都合の悪いメディアからは逃げる。これでは”反省していない内輪ノリ”と批判されても仕方ないでしょう。本当の意味での再起の道のりは、まだ遠いと言わざるを得ません」 仕事として待機していた報道陣はともかく、やりきれないのはファンたちだ。スタッフから「帰宅済み」を告げられた後も、かじかむ手で色紙を握りしめたまま、何時間も呆然と劇場を見つめ続ける女性たちの背中にはやるせなさが滲んでいた。 事件を経て、舞台の上では「オレ」をさらけ出しても、現実世界でカメラのフラッシュを浴び、厳しい”問い”をかけられる覚悟はまだ定まっていなかったのか。 マスコミとファン、そして大勢の仲間たちが見守る中での復帰初日――。7年のブランクを感じさせない”逃走劇”だけが、寒空の下に残された。