裁判官らが「保釈」運用を議論へ

犯罪の疑いをかけられて身体を拘束された人の保釈について、裁判官はどう判断すべきか。「大川原化工機」(横浜市)をめぐる冤罪(えんざい)事件などで問題視された保釈について、最高裁は全国の裁判官による議論を始める。 議論は非公開だが、結果は全国の裁判官に共有される見通しで、保釈判断の実務に影響を与える可能性がある。 保釈は、逮捕されて警察署や拘置所に身体を勾留中の人に一定のお金を払わせて拘束を解く制度で、裁判官が可否を判断する。 ■「人質司法」批判も 無罪を主張するなど容疑を争うと、証拠隠滅の恐れを理由に認められないことが多い。当事者は家族との生活や仕事などに大きな支障が出るため、捜査側に迎合するなど冤罪につながりかねないとして「人質司法」と批判されてきた。 大川原化工機の冤罪事件では、不正輸出の疑いで同社社長らとともに逮捕された元顧問の男性(当時72)が勾留中に胃がんが見つかったのに、東京地裁が保釈請求を却下し続けた。男性は保釈を認められないまま亡くなり、裁判所への批判が高まっていた。 議論は研修機関「司法研修所」の研究会で、全国の刑事裁判官ら数十人が年明けにもオンラインで始める。証拠隠滅の恐れや、勾留による健康や社会生活の不利益をどう考えるかなど、保釈を認めるかどうかの運用面が論点になりそうだ。保釈に詳しい法律家など外部講師を呼ぶことも検討するという。 ただ、憲法が「裁判官の独立」を保障することを理由に、大川原化工機冤罪事件など個別事例の是非は議論しないという。(米田優人) ■検証しない理由は「裁判官の独立」 大川原化工機の冤罪(えんざい)事件では、警察や検察が8月、捜査や身体拘束などに関する検証結果を公表したが、裁判所は保釈の判断を検証していない。 理由とされるのが、憲法の保障する「裁判官の独立」だ。政府や国会など外部の干渉を受けない公正な判断を守るための定めで、過去の冤罪でも裁判所は検証を避けてきた。 ただ、裁判所には「今の保釈判断がすべて正しいとは思わない。学ぶべき点を今後に生かしていかなければいけない」(ベテラン裁判官)との声もある。最高裁の平城文啓・刑事局長は5月の参院法務委員会で「裁判官の議論の場を確保するなどして、適切な運用がされるよう支援したい」と述べていた。 保釈は以前よりは認められやすくなった。一審判決までに保釈された被告の割合を表す保釈率は2008年は約16%で、24年は約33%になっている。ただ、否認すれば保釈が認められにくい傾向は続いており、判決まで数カ月、長ければ数年も勾留される。 青山学院大の葛野尋之教授(刑事訴訟法)は、今回の議論に対し「身体拘束で容疑者や被告にどれほど不利益があるかの理解を共有してほしい。個別の保釈判断の検証が難しい面はあるが、外部の法律家や研究者に議論を委託することもできるのではないか」と話す。(米田優人)

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