「私の政治の旅は終わり」スターマー英首相が下院で最後の質疑、野党からも称賛や冗談

ケイト・ワネル政治記者、ブライアン・ウィーラー政治記者 イギリスのキア・スターマー首相は15日、下院で辞任前の最後の首相質疑に臨んだ。スターマー氏は議員らに対し「私の政治の旅は終わりだ」と述べ、「自分が成し遂げたすべてのことを誇りに思う」と語った。 50分間の審議では、通常の政治的な対立はほぼ棚上げされ、あらゆる政党の議員らが、退任する首相に敬意を表し、冗談を交わしたり逸話を共有したりした。野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、スターマー氏は下院のさまざまな立場の人々と協力してきたと述べ、「真の愛国者」だと評した。 いつものように、最前列の閣僚席で首相の隣に座っていたレイチェル・リーヴス財務相は、今にも泣き出しそうに見えた。労働党のキャロリン・ハリス議員も、議場で「私たちは毎日、彼の高潔と勇気が輝くのを目にしている」と語りながら、こみあげる感情が抑えきれない様子だった。 退任間近の首相は、官邸スタッフについて「私のために火の中を歩く覚悟でいてくれた」と感謝した。 傍聴席には家族のほか、スターマー氏が在任中に出会った活動家など、数人の招待客が座っていた。 スターマー氏は演説の中で、聴衆の一部に直接語りかけ、「この労働党政権によって生活が変わったり、向上したりした傍聴席の皆さん、そして全国各地で声を聞いてもらえず苦労している皆さん、皆さんこそ、私が政治の世界に入った理由です」と述べた。 最後は家族が見守る中、与党・労働党の議員だけでなく、野党議員からもスタンディング・オベーションを受け、首相は議場を去った。 スターマー氏は、17日の労働党特別大会で元グレーター・マンチェスター市長のアンディ・バーナム下院議員が新しい党首に正式に選出された後、20日にも首相職をバーナム氏に引き継ぐ予定だ。 2024年の地滑り的な選挙勝利からわずか2年後に、自党の議員たちによって辞任に追い込まれたスターマー氏だが、この日は下院本会議場に到着すると、労働党の議員席から歓声で迎えられた。 首相の最後の質疑応答によくあるように、議場の雰囲気は通常よりも穏やかで和やかなものだった。サッカー男子ワールドカップ(W杯)北中米大会でのイングランド代表への期待や、野党リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首の議員辞職を受けた補選に関するジョークが飛び交った。 しかし、議会は厳粛な雰囲気で始まり、スターマー氏は、先に殺害されたアン・ウィディコム元下院議員(78)に追悼の意を表した。 また、自分が議員を務めていた間に現職または元議員が3人も殺害されたと述べ、「身の毛もよだつ」ことだと話した。 元保守党の閣僚経験者で、最近では野党リフォームUKの報道担当を務めていたウィディコム氏は今月9日、自宅で遺体で発見された。11日には、事件に関連し28歳の白人イギリス人男性が逮捕された。この男性は13日にも、テロ行為の実行、準備、または扇動の容疑で再逮捕された。 警察は、ウィディコム氏が「標的を定めた襲撃」で殺されたとみており、犯行動機の解明に取り組んでいるとしている。 最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、ウィディコム氏は「高い信念」と「鋭いユーモアのセンス」を持つ女性だったと追悼した。 ■労働党議員への警告、W杯や補選にまつわるジョーク ベイドノック氏はこの日の質疑で、退任する首相の実績を批判することは控え、ウクライナに関する取り組みや、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領との友好関係を称賛した。 その一方でベイドノック氏は、働党議員やバーナム氏への皮肉を展開。バーナム氏は「夏休みで慌てて姿を消す」のではなく、下院で質問に答えるべきだったのではないかと、首相に問いかけた。 バーナム氏は、先月のメイカーフィールド選挙区での補欠選挙を経て下院議員に復帰して以来、首相質疑にはすべて欠席しており、今回も欠席した。 英下院は16日から夏季休会に入るため、バーナム氏が議会で初めて質問に答えるのは9月になる見込みだ。 ベイドノック党首はまた、首相交代は「万能薬」ではないと労働党議員に警告し、「彼らの苦難は始まったばかりだ」と述べた。 ベイドノック氏から、後任者への助言があるかと質問を受けたスターマー氏は、直接的な回答は避けたものの、「全面的に支持する」と約束した。 「求められれば個人的に支援するが、求められていないのに公の支持表明はしない」とも、付け加えた。 スターマー氏はまた、2024年に弟ニック・スターマー氏ががんで亡くなった際や、昨年5月に家族の住宅などが放火された際に、ベイドノック氏が示してくれた親切に感謝の意を表した。 この日の議会は、W杯でイングランド対アルゼンチンの準決勝が始まる8時間前に行われたため、試合に関する発言が相次いだ。 保守党のグレアム・スチュアート議員は、首相が「400人のあやしい審判」によって「レッドカード」を出されたと冗談を言った。 自由民主党のウィル・フォスター議員は、イングランドがW杯で優勝した場合、スターマー氏の最後の仕事は祝日を宣言することかと質問した。 これに対しスターマー氏は、「運命をもてあそびたくはない」と答え、19日にあらためて質問するよう、フォスター氏に提案した。 アメリカのアトランタ・スタジアムで行われた準決勝では、イングランドがアルゼンチンに1-2で敗れた。 議会ではまた、リフォームUKのファラージ党首の辞任を受けて実施されるイングランド南東部クラクトン選挙区での補選についても、何度か言及があった。 ファラージ氏は、支持者から受け取った資金や便宜をめぐり厳しく追及されている事態を受け、下院議員をいったん辞任し、補選に再出馬すると表明。一方、労働党をはじめとする主要政党は、ファラージ氏の動きをパフォーマンスだと非難し、この補選をボイコットする方針を固めている。 これにより、ファラージ氏の対立候補はほとんどが無所属か、あるいはジョーク候補者となっている。なかでも、大きなごみ箱状のかぶりもので知られる「ビンフェイス伯爵」(ビンフェイスは「顔がごみ箱」の意味)が注目を浴びている。その「正体」は、政治コメディーなどの脚本家、ジョナサン・ハーヴィー氏。 15日の質疑の中でスターマー氏は、クラクトンの住民に対し、「投票用紙をごみ箱に捨てるべきだ」と述べた。 自由民主党のデイヴィー党首は、「ばかげた政策を掲げる冗談のような人物を支持することはできない」と述べ、「だからこそ私は、ビンフェイス伯爵を支持するのだ」と付け加えた。 こうした皮肉に対し、リフォームUKのダニー・クルーガー議員は、「頭にごみ箱をかぶったコメディアン」こそ、主要政党の代わりとしてふさわしいと反論した。 ■「変化」の2年間 15日朝に行われたスターマー首相の最後の閣議では、閣僚らからスターマー氏に送別の品が贈呈された。「ビッグベン」の名で知られる議事堂の時計塔を建設した会社が1920年代に製作した銀製の置時計で、閣僚らはこの年代物の置時計を購入するため、デイヴィッド・ラミー副首相の主導でカンパを募ったという。 英首相官邸によると、置時計には、「変化を約束し、変化のために戦い、変化を実現した。キア、ありがとう ― 内閣一同」と刻まれた銘板が添えられていた。「変化(Change)」は、スターマー氏が地滑り的勝利を収めた2024年の総選挙における、労働党のスローガンだった。 元労働党党首のキノック卿はBBCに対し、今年初めにスターマー氏に対し、党首としての地位に対する挑戦に「毅然(きぜん)と立ち向かう」よう助言したと語った。 キノック卿はBBC番組「ニューズナイト」とラジオ5ライブのインタビューで、5月の地方選挙の結果が出る前と後に、首相とメッセージをやり取りしていたと明らかにした。 労働党議員がスターマー氏を辞任に追い込んだのは間違いだったと思うかと問われたキノック卿は、「私は決してそれに加担したわけではない。そして長いこと、冷静さを保ち、私が『首のない鶏の季節』と呼ぶものを終わらせようと助言してきた。党の大勢がパニックに陥っていたからだ。そして地方選挙の後になると、党内がパニックに陥ったのも当然だった」と述べた。 キノック卿はまた、年金受給者に対する冬季燃料費支給を削減するという「疎外感を与える」決定は、スターマー氏の首相としての最大の過ちだった「かもしれない」と述べた。 一方、次期首相のバーナム氏については「前向きに見ている」と述べ、「自分らしくやるように」と助言した。 (英語記事 Starmer says it's the 'end of my political journey' at his final Prime Minister's Questions)

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