よく見かける高齢の女性客が郵便局を訪れた。だが、普段と少し様子が違う。聞き慣れない農協に振り込みをしたいと言う。詐欺ではないか。局員は時間を稼いで警察に連絡。女性はだまされて330万円を振り込むところだった――。 3月7日の午後1時半ごろ、鳥取県米子市両三柳の米子浜橋郵便局を70代の女性が訪れた。対応したのは局員の井汲(いくみ)真也さん(29)。よく来局する女性で、貯金を下ろして四国の農協に振り込みたいと言う。普段は落ち着いているのに、この日は様子が違った。おどおどしている。 いぶかしんだ井汲さんが「もう少し詳しく教えて下さい」と言うと、女性は外の車に戻り、誰かに電話をかけている様子だった。詐欺かもしれない。局長も含め局員3人で対応することに。 女性は局員らに「振り込む相手は関東にいる」「50年来の知り合い」「娘の口座に振り込むんです」などと話し、つじつまが合わない。だが井汲さんは「とにかく女性の話を否定しないようにした」という。 井汲さんが米子署に連絡。駆けつけた署員が女性の説得に当たり、振り込みを思いとどまらせた。女性は警察官や検察官を名乗る男たちから電話を受け、「あなたが犯罪に関わっている可能性があり、逮捕状が出る予定」などと言われ、330万円を指定口座に振り込むところだったという。 井汲さんは「普段からよく来る人でもこういうことがあるんだな、と驚いた」。米子署の山田衛署長は4月25日、井汲さんに感謝状を贈った。署の担当者は「あえて踏み込んで阻止してくれた。感謝しかない」と話した。(奥平真也)