劇場版『名探偵コナン』はなぜ毎年盛り上がれるのか? 『隻眼の残像』から考察

あなたは最近、いつ映画館に行ったか思い出せるだろうか? もういつ行ったか思い出せな い、という人もいるだろう。映画館に通う人口が減少傾向にあるというのは知られた話で特に洋画は集客に苦戦している。その中で毎年のように沢山の人を集め興行収入を更新する映画がある。『名探偵コナン』だ。 『名探偵コナン』を一度も観たことがない人は少ないはずで、大方の人がストーリーを知っているだろう。その中で劇場版は約2時間の中で1個の事件を解決するスタイル。2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』のようにサプライズで本編と関係する情報が公開されることはあれど、基本的には本編の重要情報として物語が深く立ち入ることは少ない。それなのに何故、毎年鮮度を失わず多くのファンを獲得していくのだろうか? その考察には「リピーター」の存在が重要となるだろう。 というのも『名探偵コナン』の映画は必ず犯人が存在し、それを暴く過程を楽しむものだ。最近の映画では動機が複雑化したことによってヒューマンドラマとしての側面も表に出ているが、メインは犯人を逮捕するまでのサスペンス劇。2回目以降の鑑賞では必然的にストーリーに対してスリルを味わうことは難しい。けれどもリピーターが驚異的に多いのが本シリーズの特徴だ。ここから観客が決してサスペンス映画としてだけ楽しみに来ているだけではないといえるだろう。リピーターがなぜ多く発生するのかを考えれば、劇場版『名探偵コナン』がポピュラーな理由に迫ることが出来そうだ。 一つの理由として、キャラが明確に立っていることが挙げられる。『隻眼の残像』の舞台は長野、メインキャラは長野県警の面々だ。10カ月前に雪山で犯人とチェイスを繰り広げ、銃撃と雪崩に巻き込まれ片目と記憶を失った長野県警の大和が鍵を握る。10カ月後、大和の事件を調べていた毛利小五郎のかつての同僚、通称“ワニ”が何者かによって射殺される事件が発生。弔い合戦を誓った小五郎も無理をいって長野県警の操作に乗り込んだ。一見局所的な事件に思えたが事件全貌は国を巻き込む様相を呈していく。 本作では長野県警がメインだったように2024年は怪盗キッド、2023年は灰原哀と毎年違った人物がメインキャラクターとして存在しているのだ。加えてその誰もが覚えやすい。例えば、本作の長野県警では隻眼の大和敢助、大和に惚れている上原由衣、明らかに諸葛孔明がモチーフな諸伏高明と名前は仮に覚えていなくとも顔は1回観ればわかるくらいに印象深い。 ここで少し余談だが、本作では上記の長野県警組の過去にまつわる話が示唆されている。これらは過去にTVや映画で触れられたもので正直初見ではわかりにくい。しかし、全く予備知識のない私でも特に気にすることなく鑑賞することができた。むしろ、過去が気になるなと思い、最近発売されている長野県警セレクションの漫画を買おうかなと考えているくらいだ。ということは逆もまた然りで原作やアニメを追っているファンたちはしっかりと楽しめるということ。愛のあるファンを拾い、また新規で興味が出てくるファンもさらえるような構造を私は良いものとして受け止めている。 話を戻そう。覚えやすいキャラクターが大衆ウケに強く貢献している理由は、それが誰かの推しになりやすいからだ。特徴を掴みやすいのもあるうえ、友人にもわかりやすい特徴を言うだけで「ああ、あの人ね」と伝わる。こうして誰かの推しになった観客がリピーターになっていくわけである。と同時にアクスタや缶バッジも売れていくという好循環。興行収入の面でもキャラクターたちの個性の強さは一役買っている。 もう1つの理由としては映像のディテールが凝っている。ということだ。

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