被害者や家族から助けを求める声があったのに、なぜ最悪の結果を防げなかったのか。警察の対応や捜査の手法について、徹底した検証が不可欠だ。 川崎市の住宅地でストーカー被害を訴えていた20歳の女性が遺体で見つかった事件で、神奈川県警は元交際相手の男を死体遺棄容疑で逮捕した。 女性は昨年12月、身を寄せていた祖母宅から行方不明になっていた。先月、男の自宅をストーカー規制法違反容疑で家宅捜索し、床下からバッグに入った女性の遺体が見つかった。 県警によると、男とのトラブルの最初の通報は昨年6月。その後も家族らが男の暴力行為などを知らせ、行方不明になる直前には「家の周りをうろついていて怖い」など計9回も通報している。 これに対し、県警は男への口頭注意やパトロールを行い、「必要な措置を講じた」としている。被害の詳細が確認できず、希望もなかったため、規制法に基づく警告はしなかったと説明する。 遺族は「何度もSOSを出していたのに」と、不信感を強める。 ストーカー被害を未然に防ぐという規制法の趣旨を、県警が十分踏まえていたか疑問が尽きない。生活安全部門と刑事部門の連携など詳しく説明する必要がある。 警察が介入してもつきまといなどが続けば、犯罪が起こる危険性が高いとされる。 二人は別れと復縁を繰り返していたようだが、加害者から脅迫され、適切に判断できない被害者は多い。つきまとわれる当事者の立場になって被害申告を説得したり、接近禁止令を出したりすべきではなかったか。 ストーカー規制法は2000年、女子大学生が元交際相手の仲間らに殺害された桶川事件を機に施行。3度の改正で対象行為が拡大されたが、被害者が命の危険にさらされる事件が後を絶たない。 一昨年、福岡市ではストーカー被害に遭っていた女性が元交際相手に刺殺される事件も起きた。 全国の警察への相談は、ここ10年ほど2万件前後で高止まりしている。SNS(交流サイト)などを介したトラブルも増えている。 都道府県警に温度差があるとの指摘も聞かれる。事件を契機に対応を再点検してほしい。 京都府警は17年から、加害者に対して提携するカウンセリング機関の受診を最大5回まで費用負担している。周囲と連携し、更生に向けた支援も欠かせない。