警察官や検察官をかたり「資金調査」などの名目で金塊を購入させ、その後に詐取する新手の特殊詐欺事件が、広島県内でも未遂を含め複数確認されている。4月には広島市内で約2千万円の被害が発生。金は投資熱が高く、県警は金融機関の水際対策をかわす狙いもあるとみて注意を呼びかけている。 「携帯電話の不正契約の嫌疑がある。このままでは逮捕することになる」。県警によると、中区の80代女性方に4月、警察官を名乗る男から電話が入った。続いて検察官をかたる男が「潔白を証明するには資金調査が必要」と告げ、手持ちの証券を現金化し、金塊を買うよう指示してきた。 女性は信じ込み、現金化すると金融機関で1014万円を振り込み、金塊600グラムを購入。職員に振り込み理由を聞かれたが、指示通り「金の価値が上がっているので現金を金に換えるため」と説明し、疑われなかったという。犯人側とやりとりは続き、検察官役の男に電話で「金塊も資金調査が必要」と言われ、指定された自宅の敷地に紙袋に入れて置くと知らぬ間に回収されていた。 郵便受けに入っていたのは「資産お預かり証」。受託者は金融庁と記されていた。女性はその後も資金調査とする犯人側の求めに従い、振り込みを繰り返し、金融機関の通報で詐欺と分かった時、被害は2千万円に膨らんでいた。預かり証に記載の電話番号は同庁の代表番号と違っていた。 こうした手口の詐欺は昨年から全国で広がり、警察庁は今年4月、昨年6~12月に10都府県で計9億円超の被害が発生したと発表。広島県警によると、県内での実被害は1件だが、他に未遂事件を把握している。 金の価格は投資熱の高まりで高騰が続く。県警は犯人側にとって金は売買しやすく、金融機関の対策が強まる中、金塊の購入を装うことで「(被害者が)預金を動かしても詐欺と疑われにくいようにしている」とみる。 特殊詐欺に詳しい福山大の平伸二教授(犯罪心理学)は「金はかさばらないので、詐欺の便利な道具になっている」と指摘。「犯人グループは水際対策を熟知し、追及を逃れようと戦術を考えている。金融機関側は資産運用などの目的をより細かく聞き出すことが必要になる」としている。