中国共産党ではなく日本が犯人? TSMC技術流出事件に揺れる台湾

TSMCの最先端半導体技術が流出した事件で台湾が大きく揺れている。日本企業が関与していた情況が明らかになったためだ。 ◇「中国共産党ではなく日本?」 5日、ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、台湾検察がTSMCの営業秘密を不正に取得した疑いで、同社の元・現職社員3人を逮捕・拘束したと報じた。TSMCは社内モニタリング中に不審な行動を検知し、検察に通報した。台湾高等検察署(高検)の知的財産権部門が容疑者を拘束し、台湾国家安全法違反の有無について調査している。 台湾経済日報など現地メディアによると、TSMCは先月、定期的なモニタリングの中で不正な活動を検知し、当局に通報した。当初、一部では中国共産党の関与が疑われたが、実際に浮上したのは日本企業だった。台湾検察は、日本の装置メーカー「東京エレクトロン(TEL)」の台湾・新竹オフィスに家宅捜索に入ったと明らかにした。 6日、台湾経済日報は、「逮捕されたTSMC元社員はTELに転職して勤務しており、流出した機密は日本のラピダス(Rapidus)に渡り、開発中の装置調整の参考資料として活用された」と報じた。ラピダスはTSMCと同様の半導体ファウンドリ(委託生産)企業で、日本の半導体産業を再建するために日本政府と大手企業が出資して2022年に設立された。 ◇2ナノ競争のさなかに起きた大型事件 日本経済新聞によると、TSMCが流出を疑っているのは2ナノメートル(nm・1ナノメートル=10億分の1メートル)プロセス技術だ。世界ファウンドリ市場においてシェア67.6%で1位を誇るTSMCは、世界初となる2ナノプロセスを適用した先端チップを年内に量産する計画で、アップル(Apple)やエヌビディア(NVIDIA)などのビッグテック企業との契約もすでに締結しているとされる。 7月にサムスン電子ファウンドリが受注したテスラ(Tesla)のAI(人工知能)チップ「AI6」も2ナノプロセスで製造され、米テキサス州テイラー工場で2027~2028年に量産される見込みだ。ラピダスは2027年の2ナノ量産を目標に掲げており、7月には試作品も公開した。ただし、大口顧客はまだ確保できておらず独自技術も不足しているため、米国のIBMやベルギーのIMECから技術支援を受けている。 世界でTSMC・サムスン・インテルの3社しか進出できていない先端ファウンドリ事業にラピダスが参入しようとするなか、TSMCの2ナノ技術が流出してラピダスに渡った可能性が浮上しているのだ。 偶然にも、これまで蜜月関係だった台湾と日本の関係にも変化の兆しが見られる。昨年初め、TSMCの熊本工場は計画発表からわずか28カ月で完成し、超高速で稼働を開始し、すぐに第2工場の建設も決定した。しかし先月の4-6月期決算発表で、TSMCは熊本第2工場の具体的な生産スケジュールに言及しなかった。TSMCがすでに米国に大規模な投資を行っていることから、日本の事業展開の速度に調整が入る可能性も指摘されている。 ◇アジアの半導体大国に広がる「技術流出」の波 TSMCは2ナノチップを台湾・高雄で年内に量産開始予定であり、米アリゾナにも2ナノ工場を建設中だ。3~4ナノプロセス用のアリゾナ第1・第2工場に続く、3カ所目となる米国工場だ。当時、2ナノチップを台湾以外で生産することに対し、台湾国内では反対世論が沸き起こったが、その主な根拠は「台湾を守るシリコンシールドの弱体化」と「技術流出の懸念」だった。 半導体産業の国家的な重要性が高まるなか、韓国・台湾のみならず、中国でも技術流出問題の深刻さが浮き彫りになっている。 今回の事件は、2022年に改正された台湾国家安全法の「国家核心技術への無断アクセス」に関する初の事例だと、台湾検察は明らかにした。この法律では国家の先端技術流出をスパイ行為と明示している。 香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、7月、上海法院(裁判所)はファーウェイ(華為)の半導体子会社「ハイシリコン」を退職した後に通信チップのスタートアップを設立した元社員14人に、機密窃盗の罪で実刑判決を言い渡したという。一方、ハイシリコンに転職しようとして、SKハイニックスの先端メモリ技術を流出させた元中国法人の駐在員は、拘束されたままソウル中央地方法院(地裁)で裁判を受けている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする