社説:冤罪で警察が謝罪 第三者の検証で再発防止を

滋賀と東京、福井の3都県で冤罪(えんざい)事件を巡り、強引な刑事捜査が改めて浮かび上がった。 組織トップの謝罪や検証も一部であったが、冤罪を生んだ原因究明への切り込みは甘い。再発防止には、自白しない限り身柄拘束を続ける「人質司法」や、長期に及ぶ再審請求、捜査検証などの課題を解決せねばならない。 東近江市の湖東記念病院で2003年に患者が死亡し、殺人罪で服役後に再審無罪が確定した元看護助手西山美香さんに対し、滋賀県警トップの本部長が初めて直接、謝罪した。 だが、取り調べを担当した刑事による自白の誘導など、裁判で指摘された捜査への違法性について言及はなく、冤罪を生んだ要因の検証もしないという。 いったい何を反省したのか。問題の本質をあいまいにしたままなら、形だけの謝罪としか映らない。 機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の冤罪事件では、警視庁が「公安部の捜査指揮系統の機能不全が違法な逮捕につながった」との検証結果をまとめ、当時の幹部ら19人を処分するとした。警視庁トップの警視総監は会見で、逮捕された社長ら3人に謝罪した。 浮き彫りになったのは、立件ありきで暴走した捜査現場と、歯止めをかけなかった上層部のずさんな実態である。 ただ、法廷で現場の捜査員3人が「捜査は捏造(ねつぞう)だった」などと証言したが、そこまでした公安部の背景や動機など肝心な点は明らかになっていない。内部の検証にとどめた限界は、明らかだろう。 再発防止策では公安部長による「捜査会議」の導入などのほか、警察庁が外為法違反容疑の捜査は取り調べの録音・録画(可視化)を実施するよう全国の警察に指示するとした。 だが、冤罪事件は当該分野にとどまらない。すべての捜査の可視化を改めて求める。 一方、1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件を巡り、殺人罪で服役後、無罪が確定した前川彰司さんに、福井県警は謝罪せず、捜査の検証も考えていないという。あまりに不誠実な姿勢に驚く。 検察も冤罪に向き合うべきだ。大川原化工機で逮捕された会社の顧問は、がんが見つかっても検察の反対で保釈されないまま亡くなった。最高検は内部調査で「保釈請求に柔軟に対応すべきだった」としたが、当時の担当者らは処分なしという。 西山さんは、検察の違法性を認めなかった判決を不服として控訴している。 冤罪は、無実の人の自由や尊厳を奪う。その検証や救済に関わる判断を各警察や検察に委ねている現状は看過できない。 政府や国会は、第三者の検証を義務づける法整備を考えるべきだ。再審手続きの法改正や人質司法の見直しも急ぎたい。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする