男性ならば誰しも一度は視聴したことがあるだろうアダルトビデオ（DVDも含む。以下AV）。昨今はFANZAのような動画配信サイトが主流となり、購入またはレンタルして視聴することはすっかり少なくなった。だが、それでもコアなファンは「実物」を購入しており、中古市場が盛り上がっている。 中には元値よりも高い、何万円というプレミア価格となっている場合もあるようだ。なぜ、ここまで高額で取引されているのかを調べてみた。すると、単純に“古い”モノが価値が高いというわけではないようなのだ。 ◆今は視聴することができない内容 なぜ古いAVに高値が付くのか？ その理由を長年アダルト業界で働く男性に聞くと「再販されないからでは？」と言う。 「基本的にAVは再販されることがないため、一度買う機会を逃がした作品は中々手に入りません。データ販売であれば、古い作品であっても購入できますが、メーカーの倒産や、データの紛失といった理由で再販売できない作品が多くあるのも事実です。また、レジェンド女優と呼ばれる有名AV女優には熱心なファンがいるため、高値でも買い集めている人もいるでしょう」 再販売ができない絶版AVはマニアからすれば、高額であっても手に入れたい代物になる。しかし、それ以上に「ジャンルが関係している」と言うのは、中古販売に詳しいライターの山野祐介氏だ。キーワードとなるのは「動画の過激さ」だと話す。 「中古AVは『古ければ高値が付く』という単純なものではないのが難しいところです。たとえば、けっして古いものではなくても、今は撮影することができない“レアもの”のAVに高値が付いています。昔の“盗撮”や“露出”モノのAVの中には、ファンの間で『本当に盗撮しているのでは？』と噂になるほどリアルなものもあるようで、そういった作品が人気です。 ’06年には横浜駅西口でAV作品の撮影をして関係者が逮捕されるという事件も起きており、この時期のアダルト業界は無法地帯だったことがうかがえます。近年のアダルト業界はクリーンになり、かつてのような撮影はできません。それで、マニアたちがよりリアルなものを求めて高値で取引しているのでしょう」（山野氏） とくに’00年代前半ごろのAVには現在のガイドラインでは撮影できないものを収録している作品が多いために人気があり、プレミア価格で取引されているようだ。「他にもSM系、スカトロやロリ系が人気で、こちらも昔のような撮影ができないために、高値になる傾向があります」とのことで、「今後は投資対象になる」とさえ話す。 「現状でも安く投げ売りされているものが、実は高値で取引されているケースがあります。私自身、6600円で買い取りされているAVが500円で売られているのを発見して購入しました。今は安く買えても、数年後にどうなっているのかはわかりません。構造としてはビンテージの服が高値で取引されるのと同じです。持っていれば今後さらに高値を付ける可能性もあります 」（同前） ◆行われていた違法撮影の実態 内容の過激さが高値が付くかどうかのポイントだというが、実際そういった作品はどのようにして制作されていたのだろうか。’08年からAVに出演していた元セクシー女優の合沢萌氏を取材すると、「昔はコンプライアンスが緩く、違法行為はあった」と当時の内情を教えてくれた。 「当時の業界で盗撮や露出が本当に行われていたのは事実です。私がデビューをした頃は、既に露出系は禁止されていましたが、『’00年代初頭はやっていた』と業界の人が話しているのを聞いたことがあります。知り合いは新宿のアルタ前で露出撮影をゲリラで行っていたそうです。 一方、盗撮は普通に行われていました。とくにイベント会場などでは盗撮が横行していて、トイレや着替えのタイミングで『変態カメラマンに注意してください』と言われたことがあります。そうやって盗撮カメラマンたちが撮影した写真や動画を、AVメーカーが買い取って、DVDとして売っていました。メーカーや撮影スタッフも犯罪だと知っていたはずですが……」 違法行為だということを隠して撮影が行われた例もあったようだ。 「女優側は事前に露出行為がある作品で『露出の許可は取ってある』と聞いていたのに嘘だったということはよくありました。知っている作品だと、痴漢盗撮モノで実際の山手線の車内で撮影したものがあります。事前には許可は取ってあると聞いていたのに、実際の撮影はゲリラ的に行われ、撮影が終わると走って逃げなければならなかったそうです」（同前） 当時はあまり問題にしない風潮があったとはいえ、法を犯していたり、違法スレスレの行為で撮影されたものがお宝視されることはけっして褒められた話ではないだろう。だが、希少価値を見出す人がいる限り、中古AVが服やゲーム機と同じように市場の原理によって高値で取引されるのだ。 取材・文：白紙緑