逮捕された特殊詐欺グループのカンボジア拠点を知る元刑事に聞く その実態と手口「被害者は若者に」

日本からカンボジアに渡って特殊詐欺に関与したとして現地で拘束された29人が、移送されたチャーター機内で20日に詐欺未遂容疑で愛知県警によって逮捕された。拠点となった場所はタイとの国境近くにあるカンボジア北西部の都市ポイペト。中国系のカジノホテルなどが並ぶ観光地だが、同地を訪れた経験のある元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が当サイトの取材に対し、この地域や組織の実態などについて解説した。 愛知県警によると、逮捕された29人はいずれも住所、職業不詳の大坪裕介容疑者(35)や比嘉正良容疑者(29)ら19~52歳。逮捕容疑は共謀して今年5月に東京・八王子市の無職男性(64)から現金をだまし取ろうとした疑いだった。 その手口は、カンボジアからSNSの通話機能などを利用して警察官をかたったというもの。「マネーロンダリング事件に関与している疑いがあり、預貯金の流れを確認する必要がある」などとうそをつき、現金を詐取しようとした。ポイペトでは中国系管理者8人ほどのもと、日本人メンバーは外出を制限され、日本語で“かけ子”をしており、今年2~5月に計約14億円をだまし取った疑いがある。 小川氏は拠点となった街の印象について「ポイペトには昨年1月と今年の1月に行きました。一番驚いたのは、昨年の1月にはなかった日本料理屋が今年の1月にはあったことです。私はポイペトで日本人に出会ったことが一度もありません。この街になぜ、日本料理屋ができたのか不思議に思っていました」と明かした。 関連性は断定できないが、この街に組織のメンバーとして日本人が居着いた時期に重なる。さらに、小川氏は話を続けた。 「タイのアランヤプラテートという街が首都バンコクから約250キロ、車で3時間半くらいで行ける国境地帯にあり、カンボジアのポイペトに陸路で比較的、出入国が簡単にできる場所です。カンボジア側に入国すると、目の前にカジノが入っているホテルがあり、カジノは10数軒くらいのホテルにあります。“第2のマカオ”と呼ばれるとの触れ込みですが、実際に見てみると違和感があります。マカオに比べると未舗装の道路もまだ多く、街灯も少なく夜間は真っ暗で“カジノの街”というイメージではないです」 東南アジアを拠点にした日本の犯罪グループといえば、2022~23年に発生した「ルフィ広域強盗事件」でフィリピンにいた指示役を連想させる。その時に警察との癒着が浮上したが、今回も例外ではない可能性があるという。 小川氏は「ルフィ事件の元・かけ子で、出所した人にインタビュー取材をしましたが、その人物は“リクルーター”という者から『うちはフィリピンの警察とうまくやっているから絶対捕まらない。大丈夫だ』と言われてフィリピンに渡ったということでした。今回のカンボジアでも同じような話が…、つまり、現地の警察当局とうまくやっている…というような話をしていたのだと思われます」と推測した。 続いて、小川氏は「今年(カンボジアの首都)プノンペンで日本人の特殊詐欺組織も捕まりましたが、その時も同じように『(現地警察に)捕まっても、すぐ出してやるから』という話をされていたという者がいた。実際はそんなことがなくても、『海外なら大丈夫。安心して“仕事”ができる』と思ってしまう。また、実際には金にならないのですが、うまくいけば『1回で500万円もらえる』などと“いい話”を信用して手を染めてしまう」と付け加えた。 だが、現実は甘くない。同氏は「1回、そこに行くと、絶対に外には出られず、外部との連絡も取れないようなシステムになっている。非常に怖い組織であると言えます」と指摘した。 一方、被害者側の心理とはどのようなものなのか。 小川氏は「実際の被害者に聞いてみると、いきなり電話がかかってきて『逮捕状が出ている』とか『あなたの名前の口座が悪用されている』などと言われてしまうと、頭の中が一時的に真っ白になってしまい、『本当にそんなことはない』と分かっているつもりでも冷静な判断ができず、相手の言いなりになってしまった…という人が多いですね」と説明した。 また、特殊詐欺の被害者は高齢者に多い傾向にあったが、今は若者が増えているという。小川氏は「高齢者にはそうした手口が分かってきているので最近は被害に遭わない人が多いです。むしろ、今は被害対象が20~30代くらいの若い方に及んでいます。それが被害状況の変わってきているところです」と注意喚起した。 今回の集団検挙は組織の全容解明への第一歩。愛知、栃木、千葉など6県警合同捜査本部が15日に設置され、今後も拠点の実態や金の流れ他の詐欺事件への関与も含めて捜査は進められていく。 (デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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