こめかみを2本の棒で挟まれて圧迫され、性器に電流を流され、天井から吊された─「独裁者ハンター」リード・ブロディが見た地獄

「独裁者を狩る」リード・ブロディは、世界の凶悪な独裁者たちが最も恐れる男といえるかもしれない。そんな彼は、強国の独裁者ほど世界にとって最悪の存在はないという。彼が次に狙う“獲物”とは。 リード・ブロディ(72)はわずか12歳のとき、弟のクリフと部屋に閉じこもり、2人で自分たちの部屋を「独立共和国」と宣言した。続いて父親の専制政治と決別し、権利の平等に基づく憲法を書き上げ、国王や独裁者に統治された国との通商を明確に禁じる条項も盛り込んだ。そして、自分たちの国を「ブロダニア」と命名した。 15歳になると、若きブロディは、進歩主義的な候補者がいれば誰彼かまわず支援するため、地元マンハッタンの家々を一軒一軒訪ねて回った。大学では、ベトナム戦争に反対する運動を率いた。 30代前半ですでに弁護士としてニューヨークで活動していたブロディは、サンディニスタ革命を間近で見るためニカラグアに赴き、祖国、米国が支援する反革命武装勢力「コントラ」による残虐行為を目の当たりにした。彼はこう振り返る。 「このとき、私の人生は一変しました。ニカラグアで、よりによって自分の国の政府が資金援助した勢力による残虐行為の被害者とはじめて対面したのです。そして、そこで起きていることを世に知らしめることを心に決めたのです」 帰国すると、ブロディは人気のある州検察庁での仕事を辞め、ニカラグアに戻って新しいキャリアをスタートさせた。それは世界中をめぐって人道に対する犯罪を調査し、ジェノサイドを暴くという、極限の恐怖と向き合うことだった。人権のために闘い、暴君、専制君主、圧政者を追い詰める──つまり「独裁者を狩る」という仕事だ。 第二次世界大戦中、ドイツとウクライナの強制労働収容所を生き延びたハンガリー生まれのユダヤ系移民の息子であるブロディは、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の法律顧問兼スポークスパーソンを務め、約40年にわたって世界で最も軽蔑すべき人物たちの首筋に、うるさいハエのようにまとわりついてきた。 ブロディは、チリの独裁者アウグスト・ピノチェト元大統領の訴追に関わり、ニカラグアのコントラの残虐性について語り、ハイチの残忍なジャン=クロード・デュヴァリエ元大統領を追及した。 9.11米国同時多発テロの容疑者に対しておこなわれた拷問をめぐってジョージ・W・ブッシュ元大統領の訴追も試みたが失敗し、ガンビアの独裁者ヤヤ・ジャメ元大統領をいまも追い続けている。 またチャドで約4万人を殺害し、数十万件の性的暴行、強制失踪、性的奴隷を生み出した政権を率いたイッセン・ハブレ元大統領の追及にその半生を費やした。そして、ブロディが「アフリカのピノチェト」と呼んだハブレは、約20年間に及んだ捜査の結果、人道に対する罪で終身刑を言い渡された。 「私は聖人ではありません。情熱を感じることをやっているにすぎません」とブロディはパソコンのスクリーン越しに完璧なスペイン語で話す。彼は、カタルーニャ出身の映画監督イザベル・コイシェと暮らすバルセロナのマンションにいる。 「ウォール街の大手法律事務所で働くこともできたでしょう。でもそれは私の生き方ではありません。興味が持てません。それは私ではありませんから」 彼の背後には、額装された世界地図がある。これは彼の執着の一つだ。ピノチェトは2006年、サンティアゴ市内の軍病院で死去する直前に、逮捕された。 「世界中の独裁者への警告」となったピノチェトの訴追をブロディは関係者たちと祝うと、その後、ヒューマン・ライツ・ウォッチの同僚たちが、ブロディのオフィスの壁に世界地図をかけたのだ。それからスパイ映画で見るように、そこに独裁者たちの写真を貼りつけ、線を引き、世界でも特に危険だとされる場所にピンを刺していった。そして「次は誰を追う?」と言い合ったのだという。 しかし、ハブレの追及ほど大変だった仕事はなかった。ブロディは、こう説明する。 「独裁者はそれぞれ異なります。私はハブレのことを 『アフリカのピノチェト』と呼びましたが、それは私たちが、ピノチェトのときと同じような司法手続きを用いたからです。実際には両者にほとんど共通点はありません。ピノチェトは右派のカトリック守旧派の擁護者でしたが、ハブレは偉大な革命家として自分を位置づけていました。 とはいえ、ハンガリーのオルバン首相や米国のトランプ大統領など、現代の独裁者たちも含め、最終的には独裁者たちのあいだには類似点があります。彼らは、常に力と恐怖を利用して統治します。 現在のチャドの独裁者も、ロシアのプーチン大統領も、次の自由選挙に勝つでしょう。でも、だからといって、自分たちの政府に反対する者たちの存在を許すわけではありません」

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