川崎市でストーカー被害を訴えていた女性が遺体で見つかり、元交際相手の男が逮捕・起訴された事件。神奈川県警が当時の対応を検証した結果を公表し、「必要な措置を講じてきた」としてきたこれまでの見解を翻して「不適切だった」と謝罪しました。 この事件は、去年12月、川崎市の岡崎彩咲陽さん(20)が元交際相手の白井秀征被告(28)からのストーカー被害を警察に訴えた後、行方不明になり、今年4月、白井被告の自宅から遺体で見つかったものです。 白井被告はストーカー規制法違反や殺人、死体遺棄の疑いで逮捕されその後起訴されました。 岡崎さんの親族は、岡崎さんらが警察に「ストーカー被害を訴えていた」と主張、神奈川県警は今年5月、当時の対応の検証を開始し、結果をきょう公表しました。 以下が、具体的な検証結果です。 ▼拙速な捜査の終結や警告・禁止命令等の機会の逸失 去年9月20日、岡崎さんは白井被告から暴行などを受けたとして被害届けを川崎臨港警察署に提出。 川崎臨港署は任意で捜査を行っていましたが、去年10月29日岡崎さんが被害届けの取り下げを申し出たためこれを受理しました。 この対応について検証結果では取り下げの意思が変わる可能性やその後、短期間の間に2人の間のトラブルがあったことから時間を置いて取り下げた理由を深く掘り下げるなど慎重に扱うべきだったとしています。 また、被害届け取り下げの2日後の去年10月31日には、岡崎さんが姉のマンションにいた際に白井被告がマンションの部屋に無断で侵入したことが疑われた事案がありました。その際、岡崎さんは「白井被告と復縁したが怖くなり姉宅に避難した」「1人でいたところ、居間の扉を開けると廊下に白井被告がいた」と説明、防犯カメラには白井被告がフェンスを乗り越えてマンションの敷地に侵入する様子が写っていました。 川崎臨港署は、岡崎さん、岡崎さんの父親、白井被告の3人が署員立ち会いの下、話し合いをした結果などから事態が沈静化したと判断し本格的な捜査は行いませんでした。 この対応についても、暴行の被害届け取り下げの2日後だったことも踏まえ、必要な捜査を継続して事件性を見極めるべきで、川崎臨港署の責任者である署長の指揮が不十分だったとしています。 また、去年11月5日には、白井被告が岡崎さんの姉のマンションの駐輪場にいたと通報があり、川崎臨港署が白井被告に事情聴取を行いました。 この際、白井被告は「岡崎さんに会いに行った」と話し、「今回の行為がストーカー行為に該当することは分かっていた」という内容の上申書を提出。 川崎臨港署はストーカー規制法の「警告・禁止命令」の適用を検討しましたが、岡崎さんの意向確認や手続きを速やかに行えなかったため「警告・禁止命令」を出す機会を逃したと検証結果は指摘しています。 そして、去年11月22日には岡崎さんと白井被告から復縁した旨の申し立てなどがあったことから臨港署の署長は事態が沈静化したとして対応を終了しました。 この際、川崎臨港署は神奈川県警本部の行方不明やストーカー事案を担当する人身安全対策課に相談しておらず、「組織的な対処を再開すべき」といった指導・助言が受けられた可能性を逸したと検証結果は指摘しています。 この判断で川崎臨港署内にトラブルはいったん解決したという先入観が形成されその後のさらなる不適切な対応につながったと考えられるとも指摘しています。 ▼被害者からの電話等への不適切な初動対応 去年12月9日から20日の間、岡崎さんが行方不明になる直前に「白井被告がうろついている」などと川崎臨港署に9回電話したにもかかわらず、電話を受けた当直の署員は署長や本部の人身安全対策課に報告しなかったほか、本来記録化すべきものが記録されていませんでした。 この対応について検証結果では担当した警察官全員が危険性や切迫性を過小評価し、報告や記録化など基本的な対応をしなかった結果、組織的な初動対応が行われず「不適切な対応」と指摘。 仮にストーカー事案と認知して対応していれば岡崎さんの安全を確保することができた可能性があったとしました。 ▼岡崎さんが行方不明になった後の不十分な初動対応 岡崎さんが行方不明になった直後の去年12月22日、祖母は「窓ガラスが割られている。岡崎さんと連絡が取れない」と110番通報しましたが、現場に向かった署員は鑑識活動に必要な道具を忘れたため写真撮影や指紋採取などの鑑識活動を行いませんでした。 署員は目視による現場確認のみで「窓が内側から外側に割れている可能性がある」「被害者は自分でいなくなった可能性がある」などと、事件性が低いと判断して祖母にもその旨を説明、必要な捜査書類の作成も行いませんでした。 親族から提供された情報などを考えれば警察が岡崎さんの行方不明を把握した去年12月22日の4日後には白井被告へのストーカー規制法違反の捜査を本格的に開始すべきだったのに、実際には遺体発見直前の今年4月11日になりました。 ▼一連の不十分・不適切な対応などを招いた組織的・構造的問題点 神奈川県警本部は川崎臨港署からの報告を追認することがほとんどで署に対する指導の不徹底や捜査に主体的に関与することが欠如していたとしています。 ほかにも幹部の指揮が不十分だったことや部署間の情報共有不足などを問題点としてあげています。 一連の対応についてこれまで、神奈川県警は「必要な措置を講じてきた」とし、親族が主張するストーカー被害については「相談を受けた認識はない」ととしてきましたが、この見解については「訂正する」と翻しました。 神奈川県警は再発防止策として神奈川県警本部に司令塔役となる幹部を配置するなどとしています。