子どもへの性加害行為を繰り返して二十数年前に逮捕され、「小児性愛障害」の診断を受けた63歳の男性がいる。男性は実名を公表して顔を出し自らの過去と今を語り、被害を減らすために社会に必要な仕組み作りを訴えている。治療は受け続けており、現在まで、再犯はしていない。批判覚悟で表に立つ、男性の思いとは(全2回の1回目)。 * * * ■性加害未遂、その足で交番へ 「このままでは、自分は子どもの命まで奪いかねない」 商業施設にいた男児に声をかけ、人目のない場所に連れ出して性加害行為を試みたが、拒まれて未遂に終わった直後のことだった。突然、言い表しようのない感情に襲われ、持っていた凶器を放り投げた。 頭が混乱して、今の自分をどうしていいかすらわからない。そんな状態のまま、足は交番へと向いた。 記憶は定かではないが、ありのままに加害行為を告白したと思う。その後、強制わいせつ未遂容疑で逮捕された。 東京都内に住む加藤孝さん(63)が二十数年前に起こした事件である。 ■「小児性愛障害」の診断 その後、加藤さんは精神疾患の一つである「小児性愛障害」の診断を受ける。国際的な診断基準では、 《思春期前の子どもとの性行為に関する強烈な空想、性的衝動、または行動が反復する》 《その衝動を実行に移したことがあるか,あるいは,その衝動および空想によって多大な苦痛または障害が生じている》 などとされている。 加藤さんは保護観察付き執行猶予の有罪判決を受けた。医療機関にかかって治療を続け、当事者らのグループミーティングに参加するなどし、現在まで再犯せずに過ごしている。2019年から実名を公表して顔を出し、自らの経験を伝える活動をしている。 「性的嗜好が混在していた」と、加藤さんは自らの思春期を振り返る。 中学生のときに見たある映画で、上半身裸の少年たちがじゃれ合うシーンに、なぜか胸がときめいた。一方で、同じ学校の女子を好きになったこともあった。 ■人生を変えた瞬間 そのうちに、一緒に遊んだ男児とじゃれ合ううちに性器をさわったりするようになった。だが、加害行為の自覚は、当時はかけらもなかった。 中学、高校では人間関係がうまく構築できず、生きづらさを抱えていた。 国立大学に進学後、酒を覚えて依存状態になった。同じころ、人生を変えてしまう瞬間が訪れる。