捜査員に付き添われ、警察署から出てきたヒョロリと背の高い男は、着ているトレーナーの首元を目が見えるギリギリまで引き上げ、写真を撮られないことだけを考えているようだった。 事件は、昨年12月22日、深夜、埼玉・狭山市内で起きた。車は制限速度60キロの国道を、時速100キロ以上で走行。赤信号を無視して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた男性をはね、そのまま逃走した。 「危険運転致死などの疑いで埼玉県警に逮捕されたのは、狭山市中央の塗装業、阪元昊(さかもとそら)容疑者(20)です。警察によると、横断歩道を渡っていた会社員の森口和樹さん(25)をはねて、死亡させた疑いが持たれています。阪元容疑者は当時、酒を飲んでいて、約2時間後、現場から約4キロ離れた場所で警察官に発見され、酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕されていました。 警察がその後、ひき逃げ事件の現場に残された車の痕跡などを調べ、阪元容疑者の関与を特定したということです。調べに対し、阪元容疑者は、『人とぶつかる事故を起こしてその場から逃げたことは間違いない』と認めていますが、『信号については覚えていない』と一部容疑を否定しています」(全国紙社会部記者) 昨年の12月23日に、狭山署から検察に身柄を送られる際に護送口から姿を見せた阪元容疑者は、ふてぶてしい態度でカメラマンに対して睨みつける表情を見せていたが、1月9日のこの日は冒頭のように顔を隠し、付き添われた捜査員から、真っすぐ歩くように注意されていた。護送車に乗り込んだ後も、トレーナーを頭からすっぽり被り、顔を見せることはなかった。 全国の警察組織が一丸となって、飲酒運転の撲滅に向けた取り組みが長年続けられてきてはいるが、その成果は一向に見えてこない。それどころか、’24年を境に飲酒運転による死亡事故は増加に転じている。 「’24年に道路交通法の改正によって、『自転車での飲酒運転』も罰則の対象として明確化されるなど、飲酒運転対策が注目されました。しかし、警察庁が’25年に公表した’24年の交通事故統計では、飲酒運転に起因する死亡事故件数が140件に達し、これは、前年比25%も増加したのです。深夜帯(22時〜5時)の事故が全体の6割に達し、30代以下が過半数を占めています。埼玉県に限っても飲酒運転による交通事故発生状況は、’21年から’24年にかけて3年連続で増加しています」(前出・記者) ◆「自動車の飲酒運転を取り締まりたい」 今回のケースも、まさにこのデータと一致する結果となってしまった。元神奈川県警刑事で、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が警鐘を鳴らす。 「実は、『自転車での飲酒運転』が罰則の対象とされた時期と、飲酒運転事故件数が増えたタイミングは、決して無関係ではありません。’24年以降、全国的に自転車を対象とした取り締まりが強化されたことにより、これまで自動車を対象とした取り締まりを行ってきた交通課の警察官が両方の取り締まりをしなくてはいけなくなりました。その結果、自動車の飲酒検問などの取り締まり件数が減ってしまっているのです。 例えば、ある地方都市では、人員不足のため毎週末に行われていた飲酒検問が行われなくなりました。その結果、飲酒運転が増えるという事態になっていると聞きました。こういうことが全国各地で起きているのです。飲酒運転の検問はいつもの場所でいつもの時間に行うことで、ドライバーに自制を促し、飲酒運転や事故を未然に防ぐという効果があります。しかし交通課の人員が自転車の取り締まりに回されたことにより、そっちに手が回らないのです。交通課の警察官からも、私のところに、 『本当は自動車の交通違反や飲酒運転を取り締まりたい。でも、できない』 といった声がたくさん届いています。自転車の飲酒運転はもちろん危険ですが、自動車のほうがはるかに人命を危険に晒す確率は高い。早急に交通課の人員を増やす。以前のように飲酒検問をできる態勢を整えない限り、このような事故は減らないでしょう」 今回のような事故を減らすためにも、早急な対策が求められる。