エイドリアン・ポルグレイズ(BBCパノラマ)、ジョセフ・リー ロンドン警視庁の現職警官らが、移民は射殺されるべきだと言い、実力行使を大いに楽しみ、レイプ被害の訴えを受けても真剣に対処しない――。そうした様子を、BBCの調査報道番組「パノラマ」の記者が潜入取材によって撮影した。 ロンドン警視庁は、現職警官によるサラ・エヴァラードさん殺害事件のあと、組織内の「有害な行動性質」に対処したと宣言してきた。だが、今回明らかになった女性蔑視と人種差別の証拠は、それに疑いを投げかけるものとなっている。 「パノラマ」が隠し撮りした映像では、警官らは同僚に性的な発言をしたり、移民やムスリム(イスラム教徒)に対する人種差別的な見方を披露したりしている。 これは、警視庁から人種差別的・女性蔑視的な態度が追放されるどころか、水面下で存在し続けてきたことを示す証拠だ。ある警官は、「新入りが来たら、まず仮面をかぶる。どんな人間か、見分ける必要があるからだ」と言った。 BBCは、取材で浮かんだ問題点の詳細を警視庁に伝えた。それを受けて警視庁は、警官8人と職員1人を停職処分にし、警官2人を一線の職務から外した。マーク・ロウリー警視総監は、「パノラマ」が指摘した警官らの言動は「みっともなく、まったく容認できず、(警視庁の)価値観や規範に反する」とコメントした。 警告:この記事には、非常に不快に感じられる差別的な表現が繰り返し出てきます 潜入記者が撮影した警官には、次の人たちが含まれる。 ・ジョー・マキルヴェニー巡査部長――警視庁に20年近く勤務。妊婦からレイプと家庭内暴力の被害の訴えを受けるが、真剣に取り合わなかった。加害者とされた男性の保釈を決め、同僚がその決定に懸念を示すと、「彼女の言い分でしかない」と答えた。 ・マーティン・ボーグ巡査――容疑者の足をスティーヴ・スタンプ巡査部長が踏みつけるのを見たと、熱心に説明。この件に関して、容疑者が先に巡査部長を蹴ろうとしたと自分は証言したのだと、笑いながら話した。監視カメラ映像では、その主張が事実かは不明だった。 ・フィル・ニールソン巡査――パブで潜入記者と話をした際、オーバーステイで拘束された人について、「頭を銃弾で撃ち抜かれる」べきだと発言した。また、「女とヤッてレイプするやつらには、あそこ(男性器)を撃って失血死させるのがいい」と述べた。 「パノラマ」のローリー・ビブ記者は、今年1月までの7カ月間、ロンドン中心部にあるチャリング・クロス警察署の留置場で指定留置担当官(DDO)を務めた。DDOは行政職で、巡査部長や巡査らと緊密に連携するが、逮捕には関わらない。 留置場は、逮捕された人が訴追または釈放される前に収容される施設だ。ロンドン警視庁に22カ所あり、チャリング・クロス署にその一つがある。暴力的な人や、若者や精神衛生の問題がある人など傷つきやすい人に警官が対処する、不安定な環境であることが多い。 同署は4年近く前、警察の監察機関「警察行為独立事務所(IOPC)」によって、いじめと差別に関する調査の対象となった。その結果、一部の警官が私的なグループチャットで、ガールフレンドを殴ることについて話し合い、侮蔑的かつ差別的なコメントを交わし、レイプについて冗談を言っていたことが判明した。 警視庁は、「悪質な警官」や「文化的な欠点」を根絶すると約束した。だが、人種差別的で女性蔑視的な態度の警官がまだ同署で働いていると、内部告発者らは「パノラマ」に話した。 ■「恐ろしい」女性蔑視 巡査部長は、留置場で日常業務を管理し、警視庁の価値観と倫理規定を守る責任がある。 ロンドン・ウェストエンド地区を所管するチャリング・クロス署でその役割を担っていたマキルヴェニー巡査部長は、勤務中に女性蔑視的な態度を示す姿が、繰り返し撮影された。 彼は自分の性生活について同僚たちに生々しく話した。潜入記者と同僚女性に向かって、オンラインで知り合ったという女性のことを、「ドアいっぱいの大きさで、まるで怪物だった」と言った。そして、「すごく太っていて、あそこ(女性器)が二つあった。本物と、その周りに分厚いのがあった」と付け足した。 彼はさらに、自分の乳首をいじられることで性的快感を得ると述べた。近くにいた同僚女性らが不快感を示したが、構わず話し続けた。 乳首にピアスをつける話をして、「性的に興奮すると、痛み耐性がすごく上がる。だから、オナニーしていいか聞いてみるつもりだ(後略)」と話した。 マキルヴェニー巡査部長は、留置場の担当者として、訴追された後の容疑者をそのまま留置し続けるか、保釈するかを決定する立場にある。 ガールフレンドをレイプしたとされる男性について、巡査部長が保釈を決定した際、女性のDDOは、同じ男性が過去に妊婦の腹を蹴ったとして訴追されたことを指摘し、保釈を疑問視した。するとマキルヴェニー巡査部長は、「それは彼女の言い分でしかない」と言い返した。「パノラマ」はこの事件について、全容を把握できていない。 女性のDDOは後に、マキルヴェニー巡査部長の反応に対する怒りを、潜入記者にこうぶちまけた。「あの『彼女の言い分でしかないんだよ』という言い方。彼女が妊娠している時に、(保釈された男性は)おなかを踏んづけたのに」。 「面と向かって、『くそったれ。あんたはくそったれだ』と言ってやりたい。でも、残念だけどできない。彼のほうが階級が上だから」 かつてノッティンガムシャー警察のトップを暫定的に務め、不祥事に関する審問を担当したこともあるスー・フィッシュさんは、「パノラマ」の映像を見たあと、巡査部長の性的な発言は「完全に不適切で、非常に女性蔑視的」だと述べた。 レイプと家庭内暴力の疑いに関する彼の発言については、「女性として、そして元警官として、彼のような人物が私や他の女性の安全に関して、この種の決定権をもっていることは、恐ろしいことだ」とフィッシュさんは話した。 フィッシュさんは過去に、同僚らから性的暴行を2度受けた経験を語ったことがある。1度は下級警官のときで、もう1度は幹部になってからだった。ノッティンガムシャー警察は、彼女のリーダーシップの下で2016年、女性蔑視をヘイトクライム(憎悪犯罪)として扱う最初の警察となった。 BBC記者が潜入していた今年1月、マキルヴェニー巡査部長は、留置中の女性に不適切な発言をした疑いで、調査の対象になっていると告げられた。 留置場の職員らが潜入記者に語ったところでは、この女性は南アジア系で、マキルヴェニー巡査部長は彼女に向かって「マッサージの仕事」をやるべきだと発言した。英交通警察がそれを報告したのだという。 だが先月、「パノラマ」が取材結果を警視庁に伝える前に、ビブ記者がマキルヴェニー巡査部長と接触したところ、巡査部長は留置場での仕事に戻ったと話した。 ■「激しい怒り」 BBCの潜入記者は、警官らが実力行使を楽しんでいる様子も繰り返し撮影した。このことから明らかになったのは、同僚が自分を告発することはないという、自信と信頼の文化の存在だ。 警官には実力行使が認められている。ただ、「あらゆる状況において相応かつ合理的」な場合に限ると、警官の職業行動規範は定めている。 ボーグ巡査は、非番の日に近所のパブで酒を飲みながら、警官になりすまして誘拐しようとして逮捕された男性について説明した。男性は自殺の危険性があると判断され、拘束されたという。 巡査によると、この男性は警官に唾を吐きかけ、留置場の個室のドアに放尿したため、警官によって床に押さえつけられた。彼が「蹴りを繰り出す」動きをしていると、「スタンピー」というあだ名のスタンプ巡査部長が、男性の片脚をブーツで踏んづけた。 潜入記者が、留置場の監視カメラの映像を調べたところ、巡査部長が2度にわたって踏みつける様子が映っていた。 「そいつは悲鳴を上げた」とボーグ巡査は言った。「あとで、足には腫瘍みたいなこぶができていた」。男性は巡査部長が足を踏んだと抗議。それに対してボーグ巡査は、「ああ、そうだよ、このくそ野郎」と言い返したという。 ボーグ巡査はその後、巡査部長から、容疑者が自分を蹴ろうとしたのだと説明された。巡査は、「もちろんです、巡査部長」と答え、「お望みなら、そのことをMG11に書きましょうか?」と尋ねたという。 MG11とは目撃証言のことだ。前出の元ノッティンガムシャー警察トップのフィッシュさんは、もしボーグ巡査がでっち上げの虚偽情報をそこに記したのなら、「司法の流れを曲げる行為、あるいは司法の流れを曲げる共謀行為」になると述べた。 監視カメラ映像では、男性がスタンプ巡査部長を蹴ろうとしたのかはっきりしない。男性ははだしで、4人の警官に体を押さえつけられていた。 警官の一人は、容疑者が指紋採取を拒否した場合、指2本を強く引っ張って腱を断裂させることもできると説明。「力ずくで指紋を取るのがすごく好きだ」とこの警官は話した。 潜入記者が警察署内の食堂で初めて会った別の警官は、容疑者が彼の顔に肘鉄砲を食らわせてきたと説明。そのため、バンの中で脚を拘束された容疑者が立ち上がったとき、「彼の脚の後ろをぶったたいた」と話した。 そして、「5、6回くらいだった」、「見た感じはよくなかった。あのとき激しい怒りがあったのは間違いない。だが結局、どうってことはなかった」と述べた。 ■「あいつらはただのクズ」 警官たちはパブで酒を飲みながら、自分たちが抱く人種差別、反移民、反ムスリムの考えをあらわにした。 ある時、ボーグ巡査はパブで、拘束されている少数民族出身の容疑者らについて話した。最も厄介なのはどのグループかと問われると、彼は「ムスリムだ」と答えた。 「こっちを憎んでいる。あいつらは俺たちをすごく憎んでいる。完全に憎んでいる」、「イスラムは問題だ。深刻な問題だと思う」。 警察の規範は、警官の行動について、「職務中だろうとそうでなかろうと、警察組織の信用を失墜させたり、市民の信頼を損なったりしてはならない」と定めている。 一方、ニールソン巡査は、当初は潜入記者に対して慎重で、自分の考えをあらわにしなかった。記者に対して、警視庁の監察部門の職業基準局の人間かと尋ねてきたこともあった。この探りは冗談交じりではあったが、半分は本気だった。 その2週間後、ニールソン巡査とビブ記者はパブで再会した。巡査は、ウクライナ人が戦争を逃れてイギリスに来ることは気にしないと述べた。一方で、中東からの人々に対しては、まったく違った見方を示した。2杯目のビールを飲みながら、「あいつらはただのクズだ」、「侵略だ」と主張した。 そして、「ああもう、今すぐクビになるな」とも述べた。 夜が更け、ニールソン巡査の酒が進んでも、彼の考えは一貫していた。ただ、さらに過激な言葉を使うようになり、暴力的な表現まで口をついた。 彼はアルジェリア人を「クズ」で「くそ野郎」だと言った。ソマリア人は「クズ」で「超ぶさいく」だとし、こう付け加えた。「外国人は誰だろうと、やりとりする相手として最悪だと思う」。 さらに数杯飲んでから、ニールソン巡査はイスラム教についての見方を語った。「あまりに多くのイスラム教徒が犯罪を犯すのを見てきた。あの生き方は、正しい生き方じゃない」。 「明らかに、一番たくさん犯罪を犯してるのはムスリムだ」 警察の規範は、警官が不法または不当な差別をしてはならないと定めている。内務省と警察は、宗教コミュニティー別の一般検挙率の統計を公表していない。 ニールソン巡査は、オーバーステイで拘束され、自分が対応した人物について、「頭を銃弾で撃ち抜くか、国外追放するかだ」と言った。 そして、「リボルバー(拳銃)だ。リボルバーがあれば最高だ。(中略)女とヤッてレイプするやつらには、あそこ(男性器)を撃って失血死させるんだ」と続けた。 前出の元警察幹部のフィッシュさんは、「がくぜんとし、ひどい嫌悪感を覚える」とし、巡査を「暴力的な人種差別主義者」だと呼んだ。 「彼のことを警官としてまったく信用しない。正直言って、人としてもあまり(信用)しない」 ■「本当の自分が出てくる」 何人かの警官が差別的で職業にふさわしくない発言をした一方、本心を隠す必要性を認識していると話す人もいた。 マキルヴェニー巡査部長は、警察署内の監視カメラやマイクで記録されるかもしれない形で、容疑者への実力行使の話はするなと、潜入記者に警告したことがある。 この少し前、巡査部長は、強制的に身体検査をした男性の脚を殴っていた。潜入記者は、「脚の後ろをちょっとつつくのを見たよ」と巡査部長に伝えた。 その数分後、巡査部長は潜入記者をカメラやマイクのない廊下に連れ出すと、こう言った。「留置場で実力行使について話すのは気をつけろ」、「後になって再生されたら、あまりいい印象を与えない」。 「お前の軽はずみな発言で、みんなを大々的な苦情に巻き込むな」 潜入記者が知り合った警官の中で、勤務歴が最も長いブライアン・シャーキー巡査は、パブで同僚たちと飲みながら、懲戒請求についての冗談や、性的なことをほのめかす会話に交じっていた。 巡査は、「性的暴行でくびになるなら、レイプでくびになるほうがましだ」と口を挟むと、少し考えてから、今のは冗談だと言った。「ちょっと間違っていた。自分自身に異議を唱える」。 シャーキー巡査はその後、潜入記者に、「ここの誰が信用できる? あんたは新入りだ」と言うと、ほかの出来事を話題にするのをやめさせた。 別の警官は、新しい同僚と話をする時は慎重になると、潜入記者に語った。「まずは、事実ベースで話をするという仮面をかぶる。親しくなれば、それを外す。そうやって、本当の自分が出てくる」。 BBCは警視庁に、7カ月間の取材で集めた証拠の詳細を記した文書を送った。 ロウリー警視総監は、警視庁が「これらの疑惑を調べるため、即座に前例のない行動」を取ったとし、監察機関IOPCにも伝えたとした。IOPCトップのアマンダ・ロウ所長は、「この問題を極めて深刻に扱っている」とコメントした。 ロウリー警視総監はまた、警視庁が「チャリング・クロスの留置場チームを解体した」と説明。警視庁では2022年以降、基準を満たさなかった1400人以上の警官と職員が退職や失職したとし、「警視庁史上最大の大掃除」だとした。 さらに、「同僚やロンドン市民らを失望させ続ける、ひどい行動を取る個人や集団に対処するため、もっと多くのことをする必要がある」、「そうした人たちを特定し、立ち向かい、排除する私たち決意は絶対的なものだ」とした。 「パノラマ」は、この記事で特定した個々の警官にも文書を送った。彼らからは回答を得られていない。 警視庁は、2021年にサラ・エヴァラードさんを現職警官が誘拐、レイプ、殺害した事件が発生した後、ルイーズ・ケイシーさんの主導で組織の見直しを実施。その結果、組織として人種差別、同性愛嫌悪、女性蔑視が根付いているとの結論が出された。 ロウリー警視総監は、この見直しによる勧告を受け入れる一方、問題が「組織的」だとは当時は認めなかった。 警視庁は2022年、警察監察委員会による特別措置の対象とされた。監察を強化するもので、今年1月に終了した。対象になっていた当時、警視総監は、警視庁が「大きな進歩」を遂げているとしていた。 ドミニク・グリーヴ元法務長官は、「パノラマ」の映像を見たあと、高い規範や価値観、規律が「権限をもつ立場の人間(巡査部長ら)の中にあるように見えないし、身についているようにも見えない」ことに衝撃を受けたと述べた。 そして、警官のこうした振る舞いは、同意に基づく警察活動を損なうもので、長期的には仕事を難しくしていると述べた。 元警察幹部のフィッシュさんは、「性を過度に強調した男性の行動、女性蔑視、人種差別、不当で非合法な暴力といった、非常に有害な文化が(警察に)存在すると言い切れるだけのものを、私は目にしてきた」と主張。 そのうえで、警視庁の上層部は、この文化の「深刻さ、規模、影響」を一度も理解したことがなかったとし、こう述べた。「これまで常に問題視されてきたのは、個々の腐ったりんごで、腐った樽(たる)ではなかった」。 (英語記事 Unmasked: Secret BBC filming exposes hidden culture of misogyny and racism inside Met Police)