「被告人を死刑に処する」 裁判長が告げた死刑判決を、証言台の前に立った被告人は身体を揺らしながら聞いていた。 10月14日、長野地裁で死刑の判決を下されたのは、殺人と銃刀法違反の罪に問われている長野県中野市の青木政憲被告(34)だ。青木被告は、’23年5月に同市内で散歩中の住民女性2人や警察官2人をナイフや猟銃で殺害。その後、猟銃を持ったまま自宅に立てこもったが、約12時間後に取り囲んだ警察官に身柄を確保された。 裁判員裁判の公判が始まったのは今年9月だ。 「弁護側は事件当時、青木被告が錯乱状態にあり妄想の症状があったと主張していました。被害者遺族は法廷で『家族の最後を知りたい』と訴えましたが、青木被告が答えることはなかった。彼が『黙秘します』と述べた回数は90回以上にのぼります。 青木被告が、公判中に自身の心情について語ったのは一度だけでした。『(被害者を)傷つけて申し訳ない』と謝罪しつつ、こう述べたんです。『私は異次元の存在から迫害を受けて、死刑になるためにここに来た。もう二度とプレーしない』と」(全国紙司法担当記者) ◆「浮いていても平気」 検察側は「(青木被告の)妄想が犯行に影響することはなかった」とし、責任能力があったと弁護側に反論。長野地裁は検察側の主張を受け入れ死刑判決を下した。裁判長が約30分にわたり判決理由を述べる間、青木被告は身体を揺らしたり爪をいじったりしていたという。 『FRIDAY』は事件発生直後から、現場で取材を進めていた。話を聞いた地元の人たちの言葉を再録し、凄惨な犯行の一部始終と青木被告の異様な行動を振り返りたい――。 「女性が『助けて!』と叫びながら、血相を変えて走ってきたんです。後ろから追ってきた男は、女性の背中を大きなナイフで刺した。おそらく2回です。男は3回目に女性の胸を刺すと、悠々と自宅のほうに去っていった。迷彩服を着て黒いマスクをし、サングラスをかけていました」(事件の目撃者) 目撃者が「追ってきた男」と証言したのが青木被告だ。青木被告は、市議だった父親とジェラート店を営みフラワーアート教室を開いていた母の間に生まれた。社交的な両親と違い、とても内向的な性格だったという。 「友だちとつるんでいるところを見たことがありません。周囲から浮いていても平気という印象です。好んでいつも1人でいるようでした」(高校の同級生) 青木被告は近隣の名門公立高を卒業後、1年浪人して中堅私立大に合格し上京。しかし同級生の言葉どおり、周囲と打ち解けられなかったのだろう。都会の生活になじめず大学を中退し、地元に戻ってきたという。 ◆「会話になりません」 「隣町の果樹園で働いていましたが、とにかく無口。10回声をかけても7~8回は無視です。たまに挨拶しても会話になりません。農作業はグループでやるケースもあるんですが、そんな時でも一緒に仕事せず1人で立っているだけ。作業した人が呆れることもあったそうです」(近隣住民) 青木被告が本気で相手にしていたのは愛犬だけだったようだ。 「(果樹園の仕事から)帰って来て、夜7時ごろ自転車に乗り猛スピードで疾走しているのを見ました。白い中型犬を連れていましたが、散歩というより引きずっていた印象です。人とつき合わない分、犬を相手にしていたんじゃないかな。バイクに乗って、犬を走らせているのを見たこともあります」(別の近隣住民) 人とのつき合いが苦手で、犬と一緒にいることが多かったとされる青木被告。冒頭で紹介した通り、弁護側は精神状態を理由に死刑回避を求めていた。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。 「青木被告は犯行直後に、殺害した女性の遺体を自宅敷地内に運び込もうとしています。隠蔽の意図が感じられるんです。しかも家族には危害が加えられていません。錯乱状態の人間なら、家族に襲いかかってもおかしくないでしょう。 検察側の3ヵ月におよぶ鑑定留置の結果で、青木被告には刑事責任能力が問えるという診断が下されています。客観的にみれば、精神状態が刑罰軽減の理由にならないんです。高裁での判断が注目されます」 弁護側は、死刑判決を不服とし控訴する意向だという。