昨夏以降に首都圏で相次いだ強盗事件の一部を指示したとして、警視庁などが5日までに、20代の男4人を強盗致傷容疑などで逮捕した。離れた場所から「闇バイト」の実行役に指示するために使われたのは秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」だった。同じようなアプリは他にもあり、特殊詐欺などの犯罪でも悪用されている。アプリは何のためにあるのか、悪用を防ぐ手立てはあるのか。 ■匿名性の高いアプリ 国内では2014年ごろから使われ始める 秘匿性の高いアプリの特徴は、やり取りのメッセージが全て暗号化されるところにある。記録はアプリ運営会社側のサーバーにも残らず、第三者が内容を確認できない仕組みになっている。 セキュリティー大手「トレンドマイクロ」の調査によると、同様のアプリは、無数に存在する。中でも、シグナルのほか、テレグラム、スリーマなど一定のユーザーがいるアプリは10種類ほどある。 こうしたアプリが国内で使われ始めたのは2014年ごろ。サイバーセキュリティー会社などが、プライバシーを守ったり、機密情報の漏洩(ろうえい)を防いだりする目的が中心だったという。 だが、次第に、詐欺サイトで抜き取られた他人のクレジットカード情報や、違法薬物などの取引で使われ始め、強盗や特殊詐欺の連絡手段としても悪用されるようになった。 ■サイバーセキュリティーの現場でも活用 もちろん、正しい使われ方をされ、重宝されている例もある。例えば、企業のサイバーセキュリティーの現場では、システムの脆弱(ぜいじゃく)性などを日々調べており、機微情報が外部に漏れないよう、秘匿性の高いアプリで情報交換をしているという。 秘匿性の高いアプリについて、トレンドマイクロの成田直翔さんは、記録が残らない特性そのものが悪用されていると指摘し、「残念ながら、犯罪者同士を結びつけるツールになっている側面がある。違法取引のマーケットがアプリ上で拡大している」と話した。 ■無数にある同種アプリ、規制は困難 アプリ利用の停止などの対策はあるのか。 成田さんは、「仮に国内での利用を規制できたとしても、犯罪を防ぐ根本的な解決にはならない」とみている。同種アプリは無数に存在するほか、海外サーバーから使ったように偽装するなど、抜け道があるためだ。 一般に犯罪グループの指示役は、X(旧ツイッター)などで協力者(闇バイト)を募りアプリのインストールへと誘導するという。このため、成田さんは、投稿の監視やアカウントの凍結で、誘導を止めることがまずは大切だと指摘した。(吉村駿)